Stage.6:二人の女王と、壊れたリズム
最後の欠片、狂乱のドラマー
「ドラムなら、最高に性格が悪くて、最高に腕がいいやつを知ってるわ」
アンに連れられてやってきたのは、ピンク色の髪を逆立てた小柄な少女、リンだった。
彼女は挨拶もせずドラムセットに座ると、いきなり超絶技巧のパラディドルを叩き出す。正確すぎて機械的な、けれど聴く者の不安を煽るような暴力的なリズム。
「……で? 私に何を叩かせたいわけ? 退屈な曲なら、今すぐこのスティックでアンのギターを叩き折って帰るけど」
リンの挑発的な言葉に、ナツミは圧倒されながらも、「私たちの音を聴いて」と真っ直ぐに答えた。
「ダブルフロント」の衝撃
カノンの歌詞、アンのギター、リンのドラム。役者は揃った。
しかし、練習前の打ち合わせで、ユイがひとつの提案を口にする。
「……ナツミとアン。二人の個性が強すぎる。だから、このバンドはナツミのワンボーカルじゃなく、二人が並び立つ『ダブルフロント・デュエット』形式で行こうと思うの」
その瞬間、室内の空気が凍りついた。
「冗談じゃないわ」アンがギターの弦を弾く。「私はギターボーカル以外やる気はない。私が主役で、ナツミがコーラスなら考えてあげてもいいけど?」
「何言ってるの!?」ナツミが声を荒らげる。「私の歌を信じて集まってくれたんじゃないの!? 私がフロントマンとして、みんなを《引っ張っていく》って決めたんだから!」
衝突、そして不協和音
「あなたの歌は確かに凄い。でも、私のギターを『伴奏』にするには、まだ魂が足りないのよ!」
アンの叫びは、プライドゆえの拒絶だった。
「私について来なさい、なんて甘いわ。私が、あなたを跪かせてあげる!」
二人の激しい口論が続く中、リンが苛立ったようにシンバルを蹴り飛ばした。
「うるっさいな! どっちが上とか下とか、そんな低レベルな話、私の前でしないでくれる? 音楽は『運命を無理やり変える』ためのものじゃないの? あんたたちのプライドごっこに付き合うほど、私のリズムは安くない!」
カノンは冷ややかにノートを閉じ、ユイは祈るように二人を見つめる。
バンドは結成の瞬間に、空中分解の危機を迎えていた。
譲れない「私」の証明
「……わかったわよ。だったら、音で決めましょう」
ナツミがマイクを握りしめる。
「アン、あんたが歌いながらギターを弾きなさい。私は、その隣でそれを超える歌を歌う。どっちが『本物』か、今ここで、この音の中で証明してやる!」
「受けて立つわ。後悔しなさい、ナツミ」
二人の女王が、一歩も引かずに向かい合う。
《未来の果てまで》響くのは、ナツミの咆哮か、アンの旋律か。
リンがニヤリと笑い、爆音のカウントを刻み始めた。
不器用で、傲慢で、けれど誰よりも音楽に飢えた5人の、本当の地獄と天国(ヘヴンリー)が今、幕を開ける。
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