like long time ago

数時間前、男は、『死刑囚を殺したら1000万円』という文言につられて、申し込みにやってきていた。


イベント会場には数百人の参加者が集まり、そのどの人間もが相当に体格に恵まれており、そして獰猛な野生を漂わせていた。そして、彼もそのうちの一人であることを自負していた。


なにせ、彼はボディビルの選手権での入賞経験のある、立派な体格を持つ元アスリート。それ以前、大学ではラグビー部に入り身体を大きくした。それ以前は、小中高と野球部だった。


所詮死刑囚など、頭のイカれた人間で、合法的に殺すことができるなら、俺のような筋肉質な人間なら簡単だろうと思っていた。なぜなら、ドウェイン・ジョンソンやジョンシナのような体格の人間は、人を殺せても死刑にはならない。


死刑になるのは相当に頭のネジが飛んだうえに、病んだ野郎で、おまけに身体も不健康。だから筋肉さえあればなんとかなると本気で彼は思っていた。


彼のベンチプレスは300㎏、デッドリフトは500㎏、バーベルスクワットは600㎏だ。そんな彼に、怖いものなどない。脳筋は、知能の結晶だと彼は自負していた。


申し込みが済み、時間になると一斉に参加者はアーケード内に押し込められた。


例えるならテーマパークのように、地図を渡されて指定の場所に行くとどのような名前の死刑囚がいるということが彼らには開示されたが、具体的にどのような者がいるのかは明記されていなかった。


しかし、それぞれの場所のアイコンなのか、猫のようなイラストが描かれている者や、蛙のようなもの、そして貝類のようなものなど、様々な生き物のイラストがそれらの人物の名前に添えて書いてあることが不思議ではあった。


何処に行っても、なにかしらの死刑囚がいて、そこにはただ参加者がいるだけだろうと彼は思った。


しかし、行ってみると想像とは違った。彼が行ったのは、イタチのような生き物のイラストが描いたエリアだった。そして、その中心にいるのは、全身に毛がびっしり生えた。獣のような人間だった。


あろうことか、そのイラストは、その中にいる死刑囚の持っている、動物の遺伝子を伝えていた。

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