第二章
一節
これはまずい。
「……ウルカ」
「なーに?」
陽の光が差し当らないここでも、太陽の代役として彼女は機能している。
「その、これは……」
けれど、その眩さなんていまはそっちのけだ。
本質はそこではない。
グラグラと頭が揺れるなか、感じるのは騒々しいものばかり。
目がチカチカしてしまう。
別段、明るい場所でもないのに。
ここは……
「あまりに人が多すぎないかしら」
視界にうつるのは全て人人人ばかり。
群衆に一度でも飛び込んでしまえば元の場所に帰ってこれなさそうなほど。
大波を形成していた。
――これはまずい。
これほどの情報量。
まともに処理しきれない。
人のいる数だけ私の中で思索をしなければいけないから。
誰だって持つであろう、――『歩く理由』を探すために。
私はガクッと肩を落とした。
「ふぅ~、それにしても冷えるねぇ」
一方の彼女は軽く両手をさすっているようだ。
「地下空間は日が当たらないし、冷えるそうね」
「そうなんだよー。こういう暖かい時季だと避暑地としてみんな集まるから人気なんだけどねー。それにしても寒いぃ」
「全くよ」
振り返ってみても、人だらけで先を見通せない。
もう、随分と深い場所まで来たんじゃないだろうか。
張り付く空気に包まれて。
私は歩む足がふらついていた。
「こんだけ人がいると大変だね~」
「最初からそう言っているでしょう……」
そしてこの窮屈な空間。
それも相まって、
「一歩間違えれば、はぐれてしまいそうね」
仕事以前の問題だったのかもしれない。
私はこめかみに手を抑えようとした。
「だからさ、はぐれないように――」
けれど、私の手をそっと掬う彼女は……
「あっ」
『しっかり手を繋いでてね』
――――うん。
「これで寒さも解決だ~」
「…………え、あっ。ええ、そうね」
「どうしたのモフィリア」
足元の水流に目が流れるように、私は下を向いた。
「――あ、歩きづらいと思っていたのよ。もう少し、端に寄って歩かないかしら」
「あはは、そうだね」
彼女の笑みはやはりいつもの明るさを持っている。
それが眩しくって。
言えなかった。
「それじゃあ改めて、レッツゴー!」
彼女の握ってくれている手はいつにもまして熱を帯びている。
こっちまで熱くなってしまうくらい。
けど、手放したくない熱さ。
それだけはわかった。
私は自然に手を強く握り返す。
彼女がどういう反応を示したかなんて、俯いていたからわからないけど。
けれど、ゆっくりと私を導いてくれる。
――とても、懐かしい気がした。
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