第32話




「じゃあ、それでお願いします」

「では、比較的安価で丈夫な、こちらなどよろしいかとぞんじますが、モード選択がございまして、簡潔な文章、うるわしいポエムふう、とにかく七五調、若者口調、老人口調、男口調、女口調などですね」


 しかしお値段を聞くと、まあ買えそうになかった。鳥子さんが値切ってみると、まあ負けてはくれた。さらにガマシーが値切ってみると、店主はウムムと考えて、しばらく鈴花を見つめたのち、ぽんと手を打つと、言った。


「こちら返品可能期限がえらく長いんですがね、お売りしてから期限が過ぎるまでのあいだ、ずっと返品されやしないかとヤキモキするのもナンですから、さしあげましょう」


 それから使いかたを教わった。なるたけ首からさげておくというだけのことだった。さげてみると、ちょっとかさばるものの、思いのほか軽かった。


 一同はお店をあとにして、聞いたこともない鳥の鳴いている森を歩いて行った。


 しばらくして見てみると、日記はちゃんと書かれてあった。モード選択をしないでいるとどうなるか、試していたのだったけれど、


『耳のとんがりし童女われを買いき。首っ玉にひっさげて、意気揚々と、歩くうち、ふと気になって、見てみるも……モード選択をしてくれはらへんさかい、どう書きゃいいのか、空き家になったカタツムリの殻のように、むなしゅう時に経たるる空っぽの渦巻銀河、さもあれ、ほんなら書かぬ、という自由もあらばこそ、書きはすっけど、寒々しいすきま風をおのがお耳で奏でつつ、考えこまされておりますことよ。』となっていた。


 考えこませるのもかわいそうなので、自動日記にとって一番苦労のなさそうな、「簡潔な文章モード」にしておいた。



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ダイアリアンの少女 尼子猩庵 @htds800

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