第31話
中に入ってみると、思いのほか、コンピューターやら健康器具やらが売ってあった。こうなってくると、都市文明も植物なのだろうか、などと思われたけれど、鈴花は頭が気持ちわるくなったので、考えることはやめて、目の前にある商品をただながめた。
正式には何屋さんなのか、ガマシーがいったん外に出て確かめてきたところによると、お店の看板には、《ハッハッハ!――……どうだい》とだけ書かれていたそうな。奥から出てきた店主は、スーツすがたのダンディなおじさんだった。
「老後の道楽で」と言った。
「ひとりでに書いてくれる、自動日記なんてありますか」
鈴花がダメもとでたずねてみると、店主のおじさんは「ありますあります。ちょっとお待ちくださいね」と言って、奥へ消えて行った。
「……ここまでくると、ガマシーも本物ね」
と鳥子さんが言った。ガマシーはウームと首をひねっていたけれど、鳥子さんにほめられて、それは照れ隠しなのにちがいなかった。
テレビやエアロバイクなど見ながら待っていると、店主のおじさんが何冊か持って戻ってきた。
「――ええ、商品のご説明をさしあげますね。自動日記は、こちらが書かなくとも、天にまします大いなる人工知能が書いてくださるのですが、出来事や会話にとどまらず、その時の持ち主の心のもようまで書かれるようになりまして、この新機能は賛否両論ございますが、もう出来事や会話だけのものは販売されておりませんために、すべてについております。
心のもようも、近ごろはより高性能になりまして、無意識のもようまで書かれ得ますが、それは、まるで支離滅裂でグロテスクな記述や、極めて論理的にまとまった記述、持ち主ではない人の心としか思われぬ記述まで混じりますために、人工知能の誤作動なのか、大自然のありのままなのか……ともあれ発売禁止になっているものも、ここにはそろえてございます」
「はあ――」
と鈴花は、ぐらぐらした頭で、かろうじて答えた。
「結論といたしましては、出来事や、周囲の様子、それからせいぜいみなさまの身ぶり手ぶり、お顔の動きや声色くらいを記述する、簡単な設定にしておけるものをおすすめします」
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