第28話
ナマケモノがゆっくりと帽子を上げて、あいさつした。
「珍しいな。人がくるのは」
カピバラのじじいもお辞儀を返して、
「お見受けしたところ、みなさん世捨て人でいらっしゃるようですな」
ナマケモノは、うんうん、とうなずいた。そうして、言った。
「ここにいる連中はな、生きるのに必要最低限のことというものが、ほんとうに必要最低限なのかどうかをな、考え疲れたんじゃ。それでひねもす、のらくらしとるよ。すごく幸せというわけではないけれども、文句はない。そうやって暮らして、最期は、バイキングの船の中で、一人静かに過ごす習わしでな。なきがらは、翌朝、メリーゴーラウンドの下に、残ったみんなで埋めるのよ」
――あとは、話すべきことはなにもない。とむすんで、うんうん、とうなずいた。
「すばらしい……」とカピバラのじじいが言った。「わしは占いで、いろいろと見すぎた。未来のことも、過去のことも。変え得たことも、変え得なんだことも……」
それからナマケモノに、ふたたびお辞儀して、
「わしもここに住まわせてもらって、かまいませんかな」
ナマケモノは、うんうん、とうなずいて、
「かまわんとも」
「なにか手続きがありますかな」
「さあ……。あったとしても、わしはまだしておらんよ。三十年くらい住んどるがね」
「でも、」と鈴花がさみしそうに、「まだ山脈に行く途中なのに」
「うん。すまないがね……一つ目でいきなり見つけてしもうたんでな。天の軌道というものは、運んでいる生き物たちを、いつも途中で降ろすものじゃ。幸いわしは、パラシュートを持っとったでな。自分で降りることにするよ」
こうしてカピバラのじじいは、錆びた遊園地に残った。
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