第26話




 また窓から女の子が見下ろしていた。なにか手話のようなしぐさで話しかけてくるのだけれど、鈴花には意味がわからなかった。ふと見れば、ガマシーが同じようなしぐさでなにやら答えている。どうやら、会話は成り立っているらしかった。


「なんて話してるの?」

「ヒミツ」


 カピバラのじじいが食後のパイプをふかしつつ、


「お前さんたち、これからどうするんかいの」と聞いた。

「わたしたちは、肖像画家――じゃない、魔女を探してるの」と鈴花が答えた。

「ほほう。どんな?」

「なんでもいいの。耳をとがらすために一回探してて、途中でもうとがったんだけど、とがったからには、きちんと見つけて終わっとかないと、っていう探しかたなんで」

「ふうん。なにやらややっこしいね。――しかし、それならなかなか善良な魔女が、おりそうな気がするがの。向こうの山脈のほうが、あやしいわ」

「具体的にわかる?」

「いやいや、ハッキリさせて、占いになってしもうてはあかんからな。なんとなくじゃ」


 一同は残りの焼き芋を荷物にしまうと、立ち上がった。ガマシーが女の子と別れのあいさつをしていた。鈴花と鳥子さんが手をふると、女の子は隠れて、人形に手をふらせた。


 なにしろ入り組んだ路地で、目抜き通りへ戻る道はいくつかあったけれど、カピバラのじじいが、こっちを通るんがよさそうだと言うので、そちらを行った。


 しばらくすると、キャラメリーノ少年が、重そうな荷物を運んでいた。鳥子さんによると、彼は夜中に絵や詩の勉強をして、昼間は生活費を稼ぐために肉体労働をしているとのことだった。


 こちらに気づいたキャラメリーノは、晴れ晴れとした顔をしていた。鳥子さんとハグを交わし、鈴花たちとも握手をして、別れた。


 カピバラのじじいの提案で、ある骨董屋に入り、中古のトランシーバーと、パラシュートを買った。町の裏側に戻り、駐車場で、空飛ぶバイクに綱をくくりつけた。


 鳥子さんが首からさげたハンモックに鈴花が座り、空に浮かんだ。ガマシーがバイクで飛ぶと、パラシュートでつながったカピバラのじじいが浮かんだ。


 鈴花とカピバラのじじいがトランシーバーで連絡を取り合い、かなたの山脈目ざして出発した。


 空飛ぶ町は、あきんどたちの用事が済んだらしく、ふたたびゆっくりと流れて行った。



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