第23話
近づいてみると、町の裏側にはそちこち標識がぶらさがっていた。それにしたがって行くと、なるほど駐車場があった。一日百円と書かれていたので、コインを入れて、バイクを停めた。
鉄くさい手すりにつかまりながら、細い通路をカンカン歩いた。湯気を立てるパイプや、ぽたぽたと黒い油を垂らしながら回る歯車がひしめいていた。一人すれちがったけれど、ガマシーにシッシッとした人ではなかった。
通路からは地上がよく見下ろせて、まあ清々として楽しかったけれども、とりあえず上側を目指して、階段やらはしごやらをズンズン上った。
最後の螺旋階段を上り切ると、太陽がまぶしかった。うすい肌色を基調にした建物が建ちならび、遠く近く塔があって、そちこち緑も多かった。
向こうにちいさな山があり、そこには滝や湖もあると、入り口の柵のところに置かれたパンフレットに書いてあった。
一種の観光地らしいとわかると、鈴花としては、すこし感動がうすれるようでなくもなかった。
パンフレットによると、町に住んでいるのは、大半が翼を持つ人々なのだそうな。しかし道にゆきかう人たちは、翼を出していないので、ちょっと見にはどっちなのかわからなかった。
そういえば鳥子さんもふだんは飛ばない。くたびれるのかとたずねると、むしろ歩くよりラクなくらいだが、あんまりこれ見よがしに飛ぶのはなんとなく、世間に気がねがあるのだそうな。
目抜き通りを歩いていると、翼のための
一同がふり返ると、背の高い、きゃしゃな体つきの、美しい少年が立っていた。
鳥子さんは少年に、「キャラメリーノじゃないの!」と言って、駆けよって抱きしめた。
弟なのだと紹介した。ちょっとフクザツな家庭事情なのだが、まず自分たちのような種族が珍しいので、その上どうフクザツなのか説明できる自信はない、とのことであった。
ついでに鳥子さんは、鈴花には自分でつけたニックネームを名乗ったが、本名はキャラメリーナというのだと白状した。
キャラメリーノ少年は、そのあいだもずっと抱きしめられたままで、恥ずかしそうにしていたが、三人同じ服装をしている鈴花とガマシーを、にらんだように思えた。鈴花とガマシーは、それでちょっと悲しくなったけれど、鳥子さんは気にもしない様子で、
「こんなところで、なにしてるのよ。学校は?」
と聞いた。とうとうふりほどかれたけれど、ねばり強く肩に腕を回していた。
キャラメリーノ少年は、肩を組まれたまま、
「僕も姉さんみたいに、うちを飛び出したんだ」
これを聞いて、鳥子さんはけわしい顔をした。
「なによそれ。ダメよ。帰りなさい。あんたには、まだまだ勉強しなけりゃならないことがあるでしょ」
「姉さんはどうなんだよ」
「私はいいのよ。だってもう――破談になったんだから。カンッペキにね」
「それは……そうだけど」
「そうでしょ?」
「でも僕は――だって僕は……」
それからの話は、じつに、デリケートで、フクザツであった。鳥子さんは、最初は弟の頭をただなでていたけれど、しまいに、また抱きしめてしまった。そうして姉弟は静かに、涙を流していた。二人の背中に、今はしまってある翼が、うっすら光って見えるけれど、それはひどく美しいやら、悲しいやら。
ガマシーがひじで鈴花をつっついた。鈴花はうなずいて、二人はそこを離れた。
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