第20話




「なにも言わずに成仏したりしないでね?」


 と鈴花が心配そうに言うと、幽霊の紳士はハハハと笑って、


「わかりました。もし成仏しそうな気がしたら、なんとしてもお伝えします」それから、例の財布をくれた。「もともと拾ったんですよ、私も。調べたら、街道をもうすこし行ったところの、服屋さんのものでした」

「届けなかったんですか」


 と、鳥子さんが言った。すこしとがめるような声だった。紳士は苦笑いして、


「時々ちいさな悪さをしないと、それこそ成仏してしまいそうな気がしますものですから」


 名前を教えてほしいと言うと、「人にあげました」ということだった。つけさせてとガマシーが言うと、「あげた人に、余計についてしまうかもしれませんので」と断われた。


 旅館を出たところで、紳士は再会を約束して、消えかかった。ガマシーがあわてて、


「ついてきてくれるんだよね。だけど、お風呂やトイレはのぞかないでよ?」

「のぞきませんとも」


 というのが、最後だった。


 財布のお金は、相談のすえ、もうじきある服屋さんとやらで、全部使い果たそうという結論になった。それで見落とさないよう注意しいしい歩いていると、果たして、まあまあ立派なお店があった。


 入って行って、ドレスだのスーツだの軍服だの、試着しては見せ合った。店の主人は髪の真っ白なおばあさんで、この人が一番、三人のファッションショーを楽しんでいた。


 やがて三人は、おそろいのオーバーオールとハンチングとスニーカーに身をつつみ、それから色ちがいのスカーフを首にまいて、代金を支払った。お金はまだ余ったので、丸いサングラスを買ったり、靴ひもの色をかえたり、オーバーオールに缶バッジをつけたりした。


 鈴花はお金を支払いながら、よっぽど、わけを話そうかと思ったけれど、ガマシーがとめた。正直者とお馬鹿さんとの境目は、むつかしいけど、ここはグッとこらえて、と。鳥子さんも賛成した。


 カラになった財布は、ガマシーの宝物に加わった。


 ところで、宝物の入っているきんちゃくの中に、タバコの煙の玉はなくなっていた。ガマシーの賭けがどうであったのかは、謎のままだった。



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