第19話
翌朝、鈴花はパッチリ目覚めた。窓から街道が見下ろせた。鳥子さんとガマシーと朝風呂に行った。ゆうべは鈴花の寝がえりがひどかったと、ぼさぼさ頭のガマシーがこぼした。
広い浴場を、裸でぺたぺた歩きまわった。一番ぬるい湯船は、旅館の下の川とつながっていて、時々魚が迷いこんできては、足やお尻をつつかれた。
上がって、服を着ようとすると、すこし汚れている。ゆうべ洗濯しておけばよかったと悔やまれた。今からでは乾かない。しかたないので、そのまま着た。ちょっと汚かったけれど、着ているうちに慣れた。
部屋の机で日記を書いた。そのあいだ、鳥子さんは新聞を、ガマシーは自分の持ち物の、なにやらしおりだけでできているちいさな本を、読んでいた。
部屋へ遊びにきていた紳士は――風呂上がりにバッタリ会ったので、みんなで招待したのだった――座椅子に座り、タバコをくゆらしていた。煙が玉になってポトポト落ちるタバコだった。それに気づいたガマシーが玉を拾い集めて、もらってもいいかと聞いた。
「かまいませんが、そのうち消えてしまいますよ」
「へえ。そんなら、この玉が消える時どんな気持ちになるか、あたい賭けよう」
それは一人だけの賭けらしかった。どういう気持ちにいくら賭けたのかは不明だった。
鈴花が日記を書き終わると、鳥子さんもガマシーも読むのをやめた。その時、紳士がおもむろに、自分の正体をうちあけた。それによると、じつは紳士は幽霊(!)なのだった。
「どうして隠してたの?」
とガマシーが聞いた。幽霊の紳士は後ろ頭をかきながら、
「人さまが驚く時の顔が、好きではないもので。ぞっとしますからねあれは。だから隠しておくクセがついてしまいました。しかし、そろそろ消えそうなもので――こうして現れていられる時間は短いのです――ないしょのまま、サッパリお別れしようとも思いましたが、どうもさみしくなっちゃいまして、言ってしまいました」
「これからどうするの?」と鈴花。
「そうですね――機会があれば、またお会いしましょう」
「ついてきてくれる?」
とガマシーが聞くと、幽霊の紳士はほほ笑んで、
「よろしいのでしたら、ついて行きましょう。次はいつ現れられるか、私にもわかりませんけれど」
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