第18話




 南国の木がずらりと立ちならぶ街道であった。鳥たちはカラフルで、カメレオンなどもいるし、どぎつい花も咲いているし、楽しそうなので、ちょっと降り立って、歩いて行った。


 チョッパーバイクはガマシーが押していたけれど、ちっとも重そうに見えなかった。鈴花が押してみると、びくともしなかったので、さすが神さまのはしくれ、ガマシーの力の、とんでもなく強いことが知れた。


 街道に沿って清らかな川が流れていた。やがて、わざわざ川の上に建てられたお店がちらほら現れた。おなかがすいていたので、レストランで食事した。


 食べながらほかのお客をながめていると、ある席に、なんだかワルそうな親子(父親と息子)がいた。鈴花たちはひそかに監視した。父親もワルそうだったが、息子もずいぶん目つきがするどかった。


 ふと、一人の紳士がお手洗いに立った。その隙に、ずっと見ていたのでなければ気づかなかったほど自然な動きで、息子が紳士の荷物をまさぐり、財布を抜き取った。


 席に戻り、父親に渡した。父親は財布をジャケットの内ポケットに入れると、親子そろって立ち上がり、レジへ歩いて行った。


 そこへ、ガマシーが歩いて行って、その財布をスリして戻ってきた。ガマシーもうまいもので、親子はまったく気づいていなかった。


 なにごともなかったように食事しながら、聞き耳を立てていると、親子が、財布がないと言ってもめ出した。息子がジロジロ見てくるのを、鈴花たちは無視して食べていた。


 やがて奥から、太った強そうなシェフが出てきて、父親はなにか紙に書かされていた。さっきの紳士はお手洗いから戻ってきていて、お勘定をしようと、親子のイザコザの終わるのを待っていた。


 ようやく親子が奥に連れて行かれたので、紳士はレジに立った。ガマシーが財布を返しに行こうとしたけれど、ハッと気がついて、


「ねえ、あたいがあの人に、落としましたよって渡したら、さっきの親子の面倒(財布がない云々)に、巻きこまれない?」


 鈴花と鳥子さんは、ガマシーのこぎたない風体を見て、なるほど危険を感じた。


 どうしようかと迷っているうちに、紳士は荷物をまさぐって財布を探したあげく、胸ポケットから裸のお金を出して、支払ってしまった。そのままレストランを出て行った。


 一人のウェイトレスが、今の紳士も財布を落としたらしいと見て、丁寧に送り出したあと、這いつくばってあちこち探していた。


 鈴花たちは急いで食べ終わると、お勘定を払ってレストランを出た。


 見わたすと、向こうに紳士が歩いていたので、追いついて、わけを話して財布を返した。紳士は上品な物腰でお礼を言って受け取った。それから四人はいっしょに歩いた。


 いいお天気ですねとか、あそこの雲はあやしいですねとか、この虫はなんでしょうねとか、そういうことを話しながら行った。


 川の上に古い旅館があったので、入った。まだ昼は続いていたけれど、なにしろ鈴花は長いこと寝ていないし、ここをのがせばしばらく宿がないと、紳士が教えてくれたので。


 紳士は一人部屋、鈴花たちは二人部屋をとった。二つ敷かれた布団の片方に、背の高い鳥子さん、もう片方に鈴花とガマシーがいっしょだった。


 横になってみると、鈴花はねむくてねむくて、夕食の時間になっても起きられず、そのままお風呂にも入らず浴衣にも着替えずに、ねむり続けた。



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