第15話
見たこともない極太のウインナーをナイフで切りながら、鈴花は町の乾燥を気にしていた。すると、コーラにストローをさしてぶくぶく言わせていたガマシーが、
「空に、加湿器を置いたらいいと思うな。町の真ん中へんに、天までとどく木が立ってるから、それによじ登って、天のところに、ちょんって置いとくの。コンセントさして」
「そんなことできる?」
と鈴花が聞くと、ガマシーは考えて、うん、とうなずき、
「できっこないけど、じっさいにやるんなら、できないなんてあり得ないわ」
「それならわたし、うちにいらなくなった加湿器があるから、取りに帰りたいんだけど」
「かまわないわよ」と鳥子さん。「近くに扉があるかしら、ガマシー?」
「えっとね――あるある。鍵をだれかが持ってたはずだけど、いつもかけ忘れてるから、なくても開くよ」
お会計はコアラのじじいが払ってくれた。それから机にチップを置いておいたのだが、チップは足を生やして逃げて行った。この町では珍しくもないことで、逃げたチップの巣がどこかにあるはずなのだとガマシーが言った。それをつきとめるために、かつて猫を飼う人が増え、時がたって、野良猫が増え、ネズミが減って、チーズが増え、そうしてチーズは、この町の名産になったのだそうな。
ある路地のどんづまりに、野原にあったのと同じ扉が立っていた。鍵は開いていた。鈴花はベランダに帰ってきた。昼間だった。家の中に入ると、祖母の里子が心配そうにしていた。聞けば、こちらでは半日いなかった勘定になっているとのこと。
比べてみるに、時間のたちかたは同じくらいらしい。向こうはまだまだ日もかたむいていなかったけれども。
一晩ねむっていないことになるが、まだぜんぜんねむたくなかった。
「いったい、どこに行っていたの?」
と里子に聞かれて、鈴花は説明しようと思ったけれど、みんなを待たせているから、とにかく渡そうと思って、日記を忘れてきたと気づいた。荷物はみんなコアラのじじいに預けてきたのだった。
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