第12話




 雪を頂いた山を三つ越えている途中で、いつの間にかすがたが見えなくなっていたコアラのじじいが、ずいぶん先に着いていた。山にトンネルがあったという。スピードは同じだったのに、まっすぐ飛んでいた鳥子さんよりも、なぜか近道なトンネルなのであった。


 さて町の人に聞きこみをして、ある路地の中に、くだんのお宅を見つけたのだが、当人いわく、「高望みの神さま」というのは、高望みを叶える神さまなのではなくて、高望みをつかさどる神さまなのだった。


「どうちがうの?」


 と鈴花が聞いた。見たところ年下なのにちがいないその少女は、むつかしい顔をして、


「正直、あたいもよくわかんない。姉さんたちが言ってたのは、時代とともに、つかさどりかたも変わってきて、今は、いうなれば、株主みたいなもんなんだとか。近ごろは高望みが豊作で、でも叶えるほうは小分けにして、全体としては増やしてないんで、もうかってもうかって――ここだけの話、あたいなんかほんとうならポイされる運命にあるはずの、できそこないなんだけど、なんとかやってけてるのは、つまりだいたいそういうわけらしいわ」


「近ごろは、だんだん叶うようになったと聞いたがね」

 とコアラのじじいが言うと、少女はかぶりをふって、


「数字の上では、叶わない人が減ってることになってるけど、じっさいには、高望みしながら、叶うのをあきらめてる人が増えたから、そういう統計になってんだってよ」

「ふうむ……。そんなことで、だれも怒らんのかね」

「姉さんたちは、株主だけじゃなくって、ほかにもやってんの。ええとね、たしか、ルール賢人会議と、モラル聖人会議と、リサーチ善人会議の、支援もしてんの。だからどこからも文句が出ないようになってて、安泰なんだとかってよ」


 なんだか小難しく、身もふたもなく、シラケてしまったので、


「どうもおじゃましたわね」


 と鳥子さんが言うと、少女は出口までついてきて、


「いやよ。ついて行くから。あなたたちの旅が、豊かになるようにね。お礼はけっこう。その上、リーダーにしてくれてもいいよ。リーダーって、たいへんな仕事だもの」

「名前はなんていうの?」と鈴花がたずねた。

「あたい? 名前はねえ、そうだな――『奇跡の無敵宇宙女神奥様』でいいよ」


「高望みの株主なら、いくらか叶える力も、あるわけじゃァないのかね」

 とコアラのじじいが言った。奇跡の無敵宇宙女神奥様は、瞳をかがやかせて、


「ちょっとくらいあると思うな。たとえば、あたいがあなたたちのリーダーになれたら、ひとつ叶えたことになるんじゃない?」


 それで、一同は相談のすえ、いちおう名目だけ、リーダーになってもらった。



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