第11話
「ああ、そういうことだったね。――しかし私のタクシーは置いてきちまったからな」と頭をかいた。「Uターンさえできてりゃ、こんなに飛ばしてこずとも済んだのに」
「もしUターンができてたら、乗せてくれてたかね」
「いやいや、とんでもない。長旅なんぞに使われちゃ、世界一の金持ちだって破産するし、私が世界一の金持ちになっちまうよ。そしたらタクシーの運転なんぞ、バカらしくってやってられないね」
コアラのじじいは、あきれた顔で、
「じゃあ、なにしにきたんだ」
「そりゃ、あんたが長旅に出るって言うから、見送りにきたってわけさ」
しかし、さすがタクシー運転手というだけあって、いろんな場所については物知りだった。魔女のことは知らなかったけれども、「高望みの神さま」とやらがいるところを教えてくれた。
北の、のどかな田園地帯の向こう、大きな山を三つばかり越えた先の町にいるそうな。待たせてあるタクシーがプッとクラクションを鳴らしたので、タクシー運転手はふたたび乗りこんで、窓を開け、コアラのじじいとなごりをおしみ合った。
「わしの見送りのために、いらぬお金を使わせちまったな」
「なに。タクシー運転手を乗せた運転手は、同じだけタクシーに乗らないといけないからね。いつか取り返すよ」
そう言うと、窓からハンカチをふりつつ、帰って行った。入れちがいに、さっきの伝書バトがまた飛んできて、
「苗木の世話をしてくれる人は見つかりませなんだが、館を管理してくれる人なら見つかりました」と言った。「ただし、ユーカリの苗木は、処分するかもしれないそうですけれども」
「そうか……。ひいじいさんのユーカリから挿し木して、毒抜きもして、大事に育ててきたんだがな。まあ、こういうことは、いつか、しかたがない時がくるもんだ。今がそれだよ」
その人に館の管理を頼むことに決め、あとのこまごました手続きは伝書バトにまかせて、三人は大通りで軽く食料を買いこむと、高望みの神さま目ざして出発した。
鳥子さんが首からさげたハンモックに鈴花が座り、パラグライダーのように空を行った。
地上ではちいさなチョッパーバイクにまたがったコアラのじじいが、荒々しい土煙を上げていた。
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