第10話




 なにやら紙の束を出してきて、電話番号をがさがさ探しているうちに、伝書バトが帰ってきた。


「苗木の世話をしてくれる人は、見つかりませんでした」


 と言って、飛び去った。


 ともあれ番号が見つかり、電話がつながったけれど、先方は運転中だということだった。


「運転中なら、あぶないから切ってください」


 と鈴花が頼んだけれど、


「いや、やっこさんは運転中にしゃべるのが好きなんだ」


 とコアラのじじいは言った。


 それからたいへん長くしゃべっていた。どうやら世間話であった。だれそれの息子がどうなっただの、あいつが死んじまっただの、ひとしきり話したあと、ようやく要件を切り出して、ふむ、ふむ、と言ったあと、コアラのじじいはこちらを向いて、先方の言うことを中継した。


「ちょうどUターンができない道で、たいそう混んでいるから、タクシーを路上駐車して、反対側の車道から、タクシーを拾って行くよ……はいはい、それじゃあ待ってるよ」


 館の外に出て、待った。煉瓦塀の内側へなみなみとたまった水に、鯉のように大きな金魚が泳いでいた。何年か前の洪水で流れてきて、そのまま住みついているということだった。ホホーと思いながらながめていると、タクシーが停まった。


 お客として後部座席から降りてきたタクシー運転手は、腰をかがめて、背の低いコアラのじじいとハグを交わし、


「いやあ、なかなかつかまらなくてね。遅れちゃすまないから、制限速度の三倍飛ばしてもらってきたよ。それだけ飛ばせば、もう一つ上の交通法において、徐行になるからね」


 と言うと、あらためて要件をたずねた。コアラのじじいが答えて、


「長旅に出るから、お前さんのタクシーに乗せてくれんかと、いうことだったんだがね」



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