第4話




 めまぐるしく考えた。――なにを? なにを考えればいいのか? 常識とか、分別とかの問題だ。それを、どう考えればいいのか?……


 けっきょく、考えても無駄だというところに、行きつくしかなかった。


 女の人は急かさなかった。大らかなほほ笑みをたたえて、静かに待っていた。


「また戻ってこられるの?」


 これは、ふいに口をついて出たのだったが、非常にふさわしい質問なのにちがいなかった。女の人はうなずいて、


「もちろん。誘拐しにきたんじゃないわ。さそいにきたの」

「あぶない目にあう?」

「それは守ってあげる。守ってあげられないようなところには行かない」

「それを、信じられる保証がある?」

「ないわ」


 キッパリそう言った。


 しかしなんだか、それで鈴花は、行くことに決めた。いったん中に入ると、服を着替え、ちょうど買ってもらったばかりでまだ外を歩いていなかった新しい靴を履いた。


 正直なところ、頭は真っ白に近かった。好奇心でもないらしかった。まったく、なりゆきだった。


 ベランダに戻ると、女の人は扉をひらいた。目が痛い。向こうは昼だ。まぶしい野原が見える。


 鈴花はいさましく歩いて扉をくぐった。そよ風が吹きつけ、草の匂いがした。新しい靴の下に地面がやわらかく、日ざしがとてもあたたかかった。



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