第5話




 扉は広やかな野原のただなかに、それだけ立っていた。閉めても、そのまま消えずに残っていた。


 女の人は鳥子とりこさんと名乗った。鳥子さんの希望では、これから二人であちこち、目的もなにもない、気楽な旅に出るつもりらしかった。


 鈴花はあたりをウットリと見わたして、


「ね、あちこち旅するけど、その前にまず、この世界のこと、案内してほしいな」


 と頼んだけれど、鳥子さんはかぶりをふって、


「だって私はもう退屈だったんだから。案内なんてできないような、知らないところへ行きたいのよ」


 と答えた。


 野原の四方は、南のかなたに海、西のかなたに山々、東のかなたに大きな町、北のかなたにのどかな田園地帯、いずれも見果てなく続いていた。


 鈴花はにぎやかそうな東の町のほうへ行きたかったけれど、鳥子さんはそこからきたので、もうそちらへは行かないということであった。


 鈴花は未練がましく町を見やった。絵本に出てくるような建物が立ちならぶ町だった――どの絵本かと聞かれては困るけれども、なにしろそういう印象だった。


 鈴花がガッカリしていると、鳥子さんは肩をすくめて、


「しょうがない、それじゃちょっとだけ、なんか買い出しに行こうか」

「いいの?」

「うん。私も、こういうこと初めてだから、なりゆきにまかせることにするわ」


 それで二人は、東へ向かって歩き始めた。


 歩いてみると、やっぱり広い野原だった。町はぜんぜん近づいてこなかった。しばらくたって、どれくらい進んだのかもわからず、鈴花はくたびれてしまった。すると鳥子さんが、なるほど鳥子さんだというような、大きな翼を、背中にぶわっと生やした。鈴花はうれしさのあまり手をたたいて、


「どうなってるのか見せて」

「いいよ」


 鳥子さんは向こうを向いた。見てみるに、服に切れ目があるでもなし、服をひっぱってみるけれど、服から生えているようでもなし、よくわからなかった。


 つくづく見ていると、もういいでしょ、とふり返った。それから、鈴花の手首をつかんで、ふっさ、ふっさ、と浮かび、町へ向かった。


 鈴花はバンザイの格好で運ばれて行った。



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