あとがき

【あとがき】


※和歌について


この物語の中で、彼女はずっと黄色いミモザを愛していました。

けれど敦の目には、その花は青く映っていた。

彼の色覚異常は後天性であり、かつては青を青、黄色を黄色として見ていた時期があったことを、彼女は知っていました。

だからこそ、彼女にはひそかな願いがありました。

いつか敦が色を取り戻したとき、

“本当の黄色のミモザ”を一緒に見たい。

そのときに、和歌を贈りたい。

そんな未来を、静かに思い描いていたのです。

裏表紙に残された和歌は、その願いの形です。

敦が見ていた青い世界も、彼女にとっては大切なものだった。

けれど、彼女が見ていた黄色の世界の中に立つ敦は、きっともっと美しい。

その想いを、たった三十一音に託しました。

叶わなかった未来への祈りであり、

彼女が最後に残した、現実の言葉です。


※この作品で書きたかったこと


この物語の根底にあったのは、

「信じたいものを信じ続けてしまう人間味」でした。

敦は、彼女が残した日記を手がかりに、

彼女の気配を追い続けます。

それが現実なのか、昏睡中の脳が作り出したものなのか、

彼自身にも分からないまま。

それでも彼は、

“彼女はそこにいる”

“彼女は自分を導いてくれている”

という感覚を手放せなかった。

人はときに、

事実よりも、

証拠よりも、

理屈よりも、

「そうであってほしい世界」

を信じてしまう。

敦が見た青い世界も、

彼女が残した和歌も、

そのすべては、

彼が信じたかったものの形だったのかもしれません。

けれど、たとえそれが幻想であっても、

その想いは決して無価値にはならない。

失われても、変わらないものがある。

その強さと弱さこそ、人間らしさだと思っています。


**ほんとに最後に**


この作品の副題は、「なくなっても価値の変わらぬ友愛」です。そして、「貴女が僕に、くれた色」=黄色。


あとがき、だらだらと書いてしまってすみません。ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。

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青のひと @onomam

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