第18話 みんなで焚火
あたしは一人で机の上で青くなっていた頃とは、まるで違う気分を味わっていた。こうじゃなければいけない、痩せていなければいけない、お風呂に入らなければいけないと頭で思い込んでいることが誰にもある。知らず知らずに、自分を思い込みの鎖でがんじがらめにしてしまう考えがある。例えば、美しいとされていることさえ、人よって感じ方が違っていることに気づけない。あの頃のあたしは、ママの価値観や周りからの目で、誰のことも味方と感じることができなかった。誰かの価値観で傷つけられるだけの弱い自分との闘いの中、生きてきた。目に見えない成果だけど、ここでみんなと一緒に旅をしたことは、占い師さんが言うように、とても実りの多いものになったと思う。ぼんやりと見つけた自由でいい。それでいい。
みんなで、焚火を囲みながら、今までの思い出話をみんなでした。
ノーベンバーは、
「ナリが来たとき、何かが始まる予感がしたわ。いい予感だったのね」
と言った。ベリーは、風呂に入れて、元の美しいスタイルに戻り、
「ナリは、人を笑顔にする才能があるのよ。ちょっとうっかりさんのところがあるけどね」
と笑った。あたしは、すかさず、
「ランナーは、人のためにいっぱい働く才能がある」
と言い、みんなが同意した。
ノーベンバーが、笑いながら、
「私のいいところも言ってくださる?」
と言うので、操り人形さんが、
「おいしい飯を作る。それもわしの知ってる限り世界でも指折りのな」
と言うと、ベリーが、
「私は?」
と言うので、嬉しそうに操り人形さんが言った。
「風呂のプロフェッショナルだ」
「なんだかやらしいわね」
とベリーが返すと、またみんなが笑った。
ランナーが言った。
「夜が怖くないのも、毎日が楽しいのも、タイコタタキさんのおかげだ」
と言うと、タイコタタキさんは、
「あんがとな~」
と言った。そして、最後に、操り人形さんが、
「わしの役目もここまでじゃな」
と言うと、あたしは焚火を見ながら、眠りに落ちていった。
突然、あたしの身体がふわふわと軽くなった。この世を俯瞰するように高速で空へと身体が浮き上がるような感覚だった。
そして、全ての感覚が消えたかと思うと、次の瞬間、前が見えないほどの桜吹雪の中にいた。薄い桜の花びらが全身を覆い、身体はとても軽い。
なんとか桜吹雪がおさまり、目を開けると、パパとママが、あたしの顔をのぞいていた。
「こんなところで何しているの?」
とあたしが不思議そうに、ママに聞くと、
「何しているじゃないわよ。大丈夫なの?」
とママに逆に聞かれた。
「夢を見ていたの?」
あたしは、ここが自分の家の玄関であることに気づき、驚いて聞いた。
「玄関なんかで寝て、心配させてなんてのんきな子なの」
「あたしはなぜここにいるの?」
「朝起きて起こそうとしたら、部屋に姿がなくて、探したら、玄関で倒れていたのよ」
あたしは、これまでのことをママに報告しようとするけど、何一つ言葉になってくれなかった。
「忘れた」
そうだ。操り人形さんの口癖がうつったんだ。言葉にはならなかったが、身体全体をとてもあたたかいぬくもりが覆っていた。
「夢だったの?」
花びらまみれの顔から一つ花びらを取ると、その花びらをあたしはじっと見つめた。
「ナリ、なおしたわ」
そう、魔女の声が、あたしには聞こえた気がした。あたしはゆっくりと息を吸い込んだ。安堵山へ続く道に豊饒を祈りながら。
あおくなり 渋紙のこ @honmo-noko
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます