第17話 傷つきやすいナイト

 安堵山のふもとをさらに進むと、大きな木にもたれかかって、浮かない顔をしている一人の男がいた。

 操り人形さんが聞いた。

「名はなんと申す?」

 男は何も言わない。

 タイコタタキさんは、気持ちが和むような明るい音でリズムを作る。

「ちょっと踊りましょうか?」

 ベリーが踊り出した。それにつられて、みんなも踊り出した。

 すると、男はこちらを探るように見て、口を開いた。

「僕の名前は、ナイトと言います」

「ナイト?」

「そうです」

「何しているの?」

 あたしがそう聞くと、ナイトの手に傷が浮かんだ。あたしは、驚いて、

「どうしたの?今、何があったの?」

 と聞くと、ナイトが答える。

「僕は、心が傷つくと、身体にも傷が浮かび上がるのです」

「何?あたしが傷つけたの?今、傷ついたの?」

「そうです。僕は、こんなに楽しい人たちにすぐ名前を言うこともできないのかと思って、傷つきました」

「あほなの?」

 ノーベンバーが言うと、今度は、ナイトの顔に傷ができた。

「また傷ついたの?」

 とあたしが言うと、今度は、ナイトの足に傷ができた。

「ずっとそうしているつもり?」

 また腕に傷ができた。

「僕は何もできないんだ」

 とナイトは言い、傷さらに深くなり、また落ち込んでいる。

「ちょちょちょっと待って」

 タイコタタキさんには、優しいリズムをお願いして、みんなで、ナイトとタイコタタキさんから離れた場所で、相談した。

「どうする?なんか厄介なやつに声をかけてしもうたな」

 と操り人形さんが言った。

「助けてあげようよ」

 とあたしが言った。

「でも、すぐ傷つくから何も話せないわ」

 とノーベンバーが言い出す。

「だけど、あたしたちには、できることがたくさんある」

 とあたしが言うと、

「何も言わずに、ぼくらがナイトを幸せにすればいいのだね」

 と珍しくランナーが口を開いた。そう言うと、ランナーは走ってどこかに行ってしまった。

 あたしたちは、なす術なく、タイコタタキさんの演奏を聴いているだけだった。

 ランナーは、両手いっぱいに荷物を抱えて、戻ってきた。

「なんとか薪と食べ物を手に入れてきました。風呂釜も見つけました。水はみんなで運びましょう」

「どこまで探しに行ったの?」

「めちゃくちゃ探しました」

「安堵山にも人の暮らしがあるのね」

「ぼくの願いは、みんなと楽しい時間を過ごすことだと唱えながら、走りました」

 とランナーは言った。

 なぜかその言葉をしっかりとみんな受け止めていて、ノーベンバーは、

「そうね。楽しい時間にしましょう。とにかく食べましょう」

 と言いながら、お料理を作り始めた。

 そして、安堵山に着いてから、お風呂に入ることができずに、太ってしまっていたベリーが言った。

「こんな身体になっちゃって」

 と言い出した。

 それを聞いたナイトが言った。

「こんなとか言わないでください。僕なんか」

 と言うと、また顔に傷ができたのを見て、操り人形さんが言った。

「ナイト、おぬしは、もう考えるな。わしらのおもてなしを受けるだけでいい。それだけでいいのじゃ」

 そう言われたナイトは、ほろほろと泣き始めた。

「今まで僕を遠ざけた人は数多くいるけど、一緒にいてくれて、さらに解決してくれようとした人たちは、初めてだ」

 と言うと、ナイトはまた泣いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る