第3話:安らぎの夜
与えられた部屋は、独房と言っても差し支えないほど殺風景だった。 あるのは古びた木製のベッドと、小さな書き物机だけ。窓からは王都の夜景が見えるわけでもなく、ただ暗い中庭が広がっているだけだ。 だが、今の俺にとっては、どんな高級ホテルよりも快適な空間に思えた。ここには、俺を脅かす魔物も、会社の上司もいない。
ぐぅ、と腹が鳴った。 そういえば、コンビニで買ったパンは転移のドサクサでどこかに落としてしまったらしい。 空腹を紛らわせるためにベッドに横になろうとした時、控えめなノックの音が響いた。
「ケンタ、起きているか? セシリアだ」
扉を開けると、そこには盆を持ったセシリアが立っていた。 湯気の立つ木椀と、固そうな黒パン。それに水差し。
「夕食がまだだろうと思ってな。食堂はもう閉まっているから、私の配給分を持ってきた。粗末なもので申し訳ないが」
「え、いいのか? セシリアの分だろ?」
「私は平気だ。それに、貴方を空腹にさせるわけにはいかない」
セシリアは部屋に入ると、机の上に食事を置いた。 近くで見ると、彼女の疲労は隠しきれないほど濃くなっていた。目の下には薄く隈ができ、美しい銀髪も少し艶を失っているように見える。 あの団長に、また何か言われたのだろうか。
「いただきます」
俺は椅子に座り、スープを口にした。塩味だけの簡素な野菜スープだが、冷えた体に染み渡る。パンは石のように固いが、スープに浸せばなんとか食べられた。
「……口に合うか?」
ベッドの端に腰掛けたセシリアが、不安そうに尋ねてくる。
「ああ、美味いよ。生き返る気分だ」
「そうか……よかった」
セシリアは安堵の息を吐き、ふっと肩の力を抜いた。 その仕草を見て、俺は彼女の肩が不自然に強張っていることに気づいた。鎧を脱いだとはいえ、彼女は常に気を張っている。
「報告書、終わったのか?」
「……ああ。一度提出したのだが、字が汚いと突き返されてな。書き直していた」
「字が? そんなことで?」
俺が呆れて言うと、セシリアは自嘲気味に笑った。
「難癖だというのは分かっている。だが、あの人は機嫌が悪いといつもこうなのだ。私が現場で手柄を立てた日は、特に……」
「ひどい話だな。国一番の騎士を、事務員みたいにこき使って」
「副団長としての務めだからな。それに、私にはこれしかできない。剣を振るうことと、国に尽くすこと以外、私は何も知らない女だから」
セシリアは寂しげに目を伏せた。 その横顔は、戦場で魔物を斬り伏せた時とは別人のように頼りなく、儚げに見えた。 俺の胸の内で、所有欲が鎌首をもたげる。 こんなにも強く、美しい女が、俺の前でだけ弱音を吐いている。この国で彼女のこの表情を知っているのは、俺だけかもしれない。
俺はスープを飲み干すと、椅子から立ち上がった。
「セシリア、ちょっと後ろ向いてくれないか」
「え? ああ、構わないが……」
言われるがままに背中を向けたセシリアの背後に回る。 質素なシャツ越しでも、彼女の背中が筋肉で引き締まっているのがわかった。 俺はそっと、彼女の肩に手を置いた。 ビクリ、と彼女の体が震える。
「ケ、ケンタ……?」
「ガチガチじゃないか。少し楽にしてやるよ」
俺は親指に力を込め、彼女の僧帽筋をぐっと押し込んだ。
「うっ……!」
セシリアの口から、甘い苦悶の声が漏れた。 指先から伝わる感触は、まるで岩のように硬い。重い鎧を着て、巨大な剣を振るい、さらに理不尽なストレスに晒され続けた結果だろう。
「痛いか?」
「い、いや……痛くは、ない。ただ……驚いただけだ。男に、このように触れられるのは……初めてで……」
「そうか。じゃあ、続けるぞ」
俺はゆっくりと、リズムよく指を動かしていった。 首筋から肩、そして背骨に沿って。 最初は緊張で硬直していたセシリアの体が、次第に熱を帯び、柔らかくなっていくのがわかる。
「あ……ふぅ……」
セシリアの吐息が熱くなる。 ただのマッサージだ。特別な技術なんてない。 だが、俺の「魅了」スキルがかかっている彼女にとって、俺の手が触れるという行為自体が、極上の快楽になっているようだった。 俺が触れるたびに、彼女の理性の壁が削り取られていく。
「そこ……効く……」
「ここか?」
「あっ、ああ……ケンタ、すごい……」
セシリアは、無防備に首を垂れ、俺の手に身を委ねていた。 俺は彼女の背中越しに、その無防備なうなじを見下ろす。 白い肌が、微かに上気して桜色に染まっている。 俺の手一つで、最強の女騎士がこうも簡単に崩れる。その事実が、たまらなく愉悦だった。
「セシリア、無理しなくていいんだぞ」
俺は耳元で囁くように言った。
「お前は十分頑張ってる。誰も褒めてくれなくても、俺は分かってるから」
「ケンタ……」
「あんな団長のためにすり減る必要なんてない。お前はもっと、自分のために生きていいはずだ」
俺の言葉は、彼女の心の隙間に水のように染み込んでいく。 セシリアが、ゆっくりと体を後ろに預けてきた。 俺の腹部に、彼女の背中が密着する。彼女の体温と、甘い匂いが俺を包み込む。
「自分の、ため……」
「そう。俺と一緒にいれば、美味しいものも食べられるし、嫌な上司に頭を下げる必要もない。……俺は、セシリアと一緒にいたいと思ってるよ」
セシリアは、俺の腕をそっと掴んだ。 その手は震えていた。
「私も……」
消え入りそうな声だった。
「私も、貴方と一緒にいたい。……このまま、時が止まればいいのにと、思ってしまう」
彼女はもう、戻れないところまで来ている。 騎士としての誇りよりも、俺という安らぎを選び始めている。
俺はマッサージの手を止め、彼女の肩を抱くように腕を回した。 拒絶はない。 むしろ、もっと触れてほしいとねだるように、彼女は俺の腕に頬を擦り寄せた。
「もう少し、こうしていてくれないか。……ケンタの熱を、感じていたい」
その声は、副団長のものではなく、ただの一人の女のものだった。
「ああ、いいよ。気が済むまで」
俺たちは狭い部屋で、静かに身体を寄せ合った。 窓の外では、王都の夜が更けていく。 セシリアの心は、今夜完全に俺へと傾いた。あとは、最後の一押しがあればいい。
俺は彼女の柔らかな髪を撫でながら、明日の計画を練った。 あの団長は、きっとまた墓穴を掘る。 その時が、セシリアを完全に俺のものにする時だ。
俺の腕の中で、セシリアが安心しきった寝息を立て始めた。 その無防備な寝顔を見下ろしながら、俺は確信した。 この異世界での生活は、俺が想像していたよりもずっと、イージーモードになりそうだ、と。
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視線が合っただけで美少女が俺に溺れる。異世界で最強のハーレムを作って楽に暮らす 仙道 @sendoakira
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