第4話 キャンプが如く

 今日から1泊2日のハロウィンキャンプだ。楽しみすぎるぜ。


後藤の自宅の最寄駅〔三軒茶屋〕で、大場以外の5人、俺、後藤、マミさん、モモ、ユッキーは合流した。

(カジュアルな格好も3人とも可愛いぜ)


ミトシュンは仕事を押し付けてきた大野の顔を一瞬だけ考えたが、すぐに振り払った。


みんな大きなバッグを後藤のアルファードの荷台に積んでいく。

 後藤のアルファードはいつみてもピカピカでカッコイイ。外装はもちろん綺麗だが、内装も高級感があり、広々していて素敵だ。まだ買って1年程しかたっていないはずだ。しかも新車で1割払いで買ったと言っていた。強欲建設の給料ではそんなことはできないはずだが、後藤は5年程前から始めたアメリカ株の投資信託で、コツコツ積み立て、その利益で買ったと話していた。なんてスマートな男なんだ。そのエピソード俺にくれ。


だいたいなんでマミさんのようなハイスペックな女性は、後藤のようなスマートな男とつるむのか不思議だ。丹⚪︎のような歯があっち向いてるような男や、いつも貧乏な男は、どんなに性格が良くても遊び相手などには選ばれないだろう。なぜなんだ?ほんとうは性格が悪いのかマミさん?裏では大リーガーのようにくちゃくちゃガムを噛み、そこらへんで唾とか吐くタイプなのか?


運転はもちろん後藤。俺はほんとうは後ろで女の子達と楽しみたいが、さすがに助手席だろう。しょうがなく助手席に座った。

 モモ「しゅっぱーつ」


 楽しい旅の始まりだ。


後藤セレクトのいい感じの音楽『R&Bやシティーポップ』などを聴きながら目的地の山梨へと向かう。

 土曜日だがそんなに渋滞に巻き込まれることもなく、12時頃出発したが、3時前にはキャンプ場へ着いた。

 富士山の麓にあり、景色は最高だ。キャンプブームの影響だろうか、キャンプをするには若干寒いが、家族連れや、自分達と同じ男女のグループなどそれなりにいる。


まず後藤と大場が、それぞれのテントを作り始めた。みんなそれを手伝う。後藤も大場も手慣れた様子で、テントを建てていく。

 後藤のテントは6人用のテントで、ドーム型をしている。大場のテントは4人用で、三角型だ。どちらもカッコイイ。


テントを建て終わると、みんなキャンプ用の椅子に座り、缶チューハイや缶ビールを片手に乾杯した。自然に囲まれている中で飲む酒は普段と違って格別だ。


乾杯した後、みんなバーベキューの準備に取り掛かった。女の子3人と後藤は、野菜などを切ったりして調理の準備、俺はバーベキュー用のコンロの火を起こすことにした。大場は焚火用に木などを集めたりしている。

 後藤、マミさん、モモは、包丁捌きなど手慣れているように見えるが、ユッキーは少し慣れていないのかぶきっちょに見える。だがその不器用さも可愛いらしい。

 火がいい感じに薪に燃え移ると、一通り調理が終わった4人と、大場も戻って、みんなでコンロを囲んだ。

 ミトシュンは焼く係を率先してやることにした。


ミトシュンには、このキャンプで作戦があった。中野のぶよ師匠の〔お姫様効果〕と呼ばれる作戦だ。1人だけ特別扱いしてくれる人を好きになりやすい、という効果があると言っていた。

 最初に高い肉を焼くことにした。焼き上がるとまず1番にユッキーの皿に持っていく。これを毎回繰り返すのだ。

(さあ、俺に好意を抱くのだ)


一通り肉や野菜を食べ終えると、コンロの隅で後藤が作っていた、ダッチオーブンで作ったシチューが振舞われた。けっこうお腹いっぱいだったが、無理なく食べれる程美味しかった。

(なんなんだこの男は、たまには欠点でも見せてみろよ)


 バーベキューを終えると日も落ちてきた。

 コンロに残っている残り火で、大場が集めてきた焚火用の木に火をつけた。

 寒くなってきたので、みんな焚火の周りに集まりだした。


ミトシュンはさっきちょっと思ったことを後藤に聞いてみた。

「後藤、おまえの欠点てなんかあんの?」

「私も聞いてみたーい!」と、マミさんも後藤を少し揶揄うような口調で話に入ってきた。

「欠点ないのが欠点なんだよね」少しスカシ気味に答えた。

「て言いたいところだけど、いっぱいあるよ。まぁ、飽きっぽいとか」

(確かに彼女はころころ変えてはいるか)

「じゃあ俺も聞きたいんだけど、ミトシュンは悩みとかあんの?」

「おいおい。人をアホみたいに言うなよ」と言って、ちょっと考える。確かに悩みという悩みはない。少し抜け毛が心配なくらいだ。

「あるけど、教えねーよ」と言い切り抜けた。


横を見るとユッキーが両腕を胸の前で組み、寒そうにしていたので、テントの中のバッグから、こんな時のため用に持ってきた少し大きめのブランケットを、ユッキーの膝に掛けてあげた。

「ありがとう。ミトシュン」投げキッスをして、ユッキーはおどけて見せた。

「ユッキーだけずるい」モモが拗ねている。

「ごめん。1個しかなくて・・」

(さあ、お姫様効果発動しろ)



オーバーサイズの袖の部分もゆったりした上着、黒のパンツ、手には魔法を出す短いステッキを持っている。

(何着させても可愛いぜ。マミさんにならどんな魔法かけられても許せるぜ)

 モモは、千と千尋のカオナシ、白い無気力な感じのお面に、全身を覆う黒の服を着ている。さっきから話かけても「あっ」としか言わなくなった。いつまで続けるか見届けよう。

 ユッキーはよくわからないが、全身枝豆のコスプレだ。頭から脚まで緑のタイツのような物で覆っていて、頭の部分が少し尖っている。上半身の丸い豆が3つついているのが印象的だ。

(まぁ、可愛いらしいこと)

 大場は被り物だけだがスクリーム、白で細長いお面。少し怖い感じだ。

 後藤も被り物だけだが馬だ。たまに結婚式の2次会などで見かける定番の被り物だ。

 俺は、作業着に箒を持ち、競艇場のおっさんが被っていそうな浅めのキャップを着けた。

「ミトシュンのは何それ?」モモが話かけてきた。

(カオナシはもう終わったのか?コンセプトは同人誌に出てくる鬼畜用務員だが、鬼畜はとっておこう)

「用務員さん」ミトシュンは答えた。

「ふーん」(変なの)モモは思った。

 ほんとうは何か買って行きたかったが、仕事が忙しくて、買いに行く暇がなかったのだ。

 家にあった小さい箒と、たまに現場で着る作業着、まず被ることはないだろうと思っていた競艇場で外した時に叩きつけるようなキャップを持ってきた。


みんなで集合写真を撮ることになった。モモが持ってきた自撮り用の棒を立てる。おのおのポーズを決める「パシャ」モモの携帯で何枚か撮った。写真をモモに見えてもらうと、ハリーポッター、カオナシ、枝豆、馬、スクリーム、鬼畜用務員が写っていた。

(何の集まりだ?)


大場が手を上げて女の子を追いかけて行くと逃げていく。

(なんて可愛いらしい光景なんだ。ずっと見てられる)

 たまに俺の後ろに来て「ミトシュン助けて」などと戯けるが(鬼畜用務員に助けを求めるバカがどこにいるんだ)などと思ったりもした。


けっこう寒くなってきたので、全員入れる後藤のテントで、トランプの大貧民をやることになった。

「ビリはウオッカ一気ね。トップはみんなに目を瞑ってもらって、数字を出す質問ができる。なんてどう?例えば今まで付き合った人数とか」モモが仕切りだした。

(その質問は手に入れたぜ)


一回戦、勝者モモ、敗者ユッキー

「うーん。将来欲しい子供の人数」

(マミさんが何人なのかが気になった)

 薄らモモにバレないよう、マミさんの手を確認した。

(5人?大家族ではないですか)

 生まれ変わるならマミさんの子供に生まれ変わりたい。マミさんの将来は絶対幸せな家庭だろう。後藤のようなスマートな旦那。一軒家か高級マンションに住み、高そうな犬か猫、子供は私立に進み、ことあるごとにホームパーティーを開く。約束されている。将来が。間違いないだろう。俺が保証する。


 次は第2回戦、この辺で勝っておかないと、

あの質問を奪われてしまう。

 2回戦、勝者ミトシュン、敗者ユッキー

(シャー!)

「今まで付き合った人数」

 まずマミさん5人。

(ほほー。そうですか、そうですか。ラッキーな男が5人もいたということですね)

 モモ8人。

(なかなか楽しんでいるではありませんか。わがままなあなたにみんな付いていけなかったんですよ。ほーほっほ)

 ちなみにミトシュンは3人だ。体の関係だけとかはあるが、ちゃんと付き合ったのは3人だけだ。

 ユッキーは1人。

(えぇ、ほんとうですか?2桁台とばかり思ってましたよ。嘘は許しませんよ)

 大場6人。

(人生俺の倍楽しみやがって)などと思っていると、隣の男は唯一手を挙げているだけでなく、動作が付いている。左手は人差し指1本のまま。右手はパーとオッケーを繰り返している。

(15人てことかこの野郎!人生俺の5倍楽しみやがって、歯を食い縛りやがれ)心の中で後藤を往復ビンタした。


3回戦、勝者マミさん、敗者ユッキー

 さっきから見ていると、ユッキーは強い手札のカードを序盤でバンバン使ってしまう。駆け引きとかが全くないのだ。それでは勝てない。とにかく性格が真っ直ぐなのだろう。

「ほんとうの友達」

(なかなか奥の深い質問だ)

 ミトシュンには後藤の他に、田辺潤という小・中学校の同級生の友達がいる。ミトシュンは指を2本立てた。


マミさんの質問が終わると、ユッキーが少し酔ったから外の空気を吸いたいと言い出した。一気するウオッカはそんなに量は入れていないが、3連続なので、ボディーブローのように効いていたのだろう。


ミトシュンはユッキーと一緒にテントの外へ行き、焚火の近くの椅子に座り、少し火が残っていた焚火に薪をくべ、火を大きくしようとしていた。周りの暗さの中、炎のオレンジ色の光が、2人の心を少し暖めた。外はけっこう寒く2人の息は白くなった。

 さっきの付き合った人数が気になっていたので、ユッキーに聞いてみた。

「今まで1人としか付き合わなかったの?」

「そうじゃよー」ユッキーは広島弁が入り始めていた。

「高校の時からずっと付き合ってたんだよ」

「なんで別れたの?」

「2年前にユキを残して死んでしまったんじゃよ」少し涙目のユッキーが、か細く答えた。

「ごめん。聞かない方がよかったね」

「いいんじゃよー」そう言うと、前の彼氏のことをいろいろ話してくれた。

 バイク好きの彼氏で、ユッキーは危ないから乗るのをやめてほしいと言っていたが、2年前に交通事故に合って死んでしまったと。半年後に結婚する約束もしてたから、元彼氏の母親とは仲が良く、息子のことは忘れて、早く幸せになりなさいと言われてることなど話してくれた。

(だれだ。週末はクラブで遊んでます。とか言ってたやつは)『おまえだよ』

 2人ともコートを羽織ってはいたが、まだ枝豆と鬼畜用務員の格好のままだったので、格好と似つかわしくない会話だな、などと思った。

 でもすごくいい娘なんだということはこのキャンプに来てよくわかった。


 後藤のテントへ戻るって、暫くするとユッキーは寝てしまった。寝顔も可愛い。


みんなでさんざん騒いで盛り上がった。疲れたのかみんな10時ぐらいになると、眠くなり寝てしまった。


朝目を覚ますと外から音がする。携帯にチラッと目をやると6時ぐらいだった。

 外へ出ると、後藤とマミさんが、何か焼いている。コンロでホットサンドプレートを2つ並べ、パンを焼いているようだ。

「おはよう」コンロの近くの椅子に座ると、マミさんがコーヒーを入れてくれた。コーヒーとパンを焼く匂いが食欲をそそった。

 マミさんはほとんどすっぴんに近かったが、すっぴんのマミさんも最高に美しい。

 全員の分いっぺんに作れないから先に食べて、と後藤がホットサンドプレートで焼いたパンを持ってきてくれた。昨日の余った肉に卵が乗っかっていてめちゃくちゃ美味しい。コーヒーとの相性も最高だ。


大場と、モモも起きてきた。

 みんなでパンを食べ、喋っていると、次はどこへ行こうか?という話になった。

「温泉どう?」モモが言う。

「いいね!」みんなでハモった。


みんながパンを食べ終わる頃、すでに食べ終わっていた俺はユッキーを起こしに行った。

 ユッキーはまだ可愛い寝顔でぐっすり寝ていた。

「朝だよー」普通に呼びかけたが全然起きなそうなので、少し譲ってみた。まだ起きない。

(だいぶ朝弱いんだな)

「おーい」少し大きな声で呼んでみた。

「うわーあ」欠伸交じりで、目を擦りユッキーは起きた「ミトシュンおはよー」

 ユッキーはのそのそ起き上がり、バッグから鏡を出して、髪型などを整えていた。

 ミトシュンはテントから出て、コンロの近くの椅子にみんなと座った。

 ユッキーが、パンを食べ終わると、みんなで片付けを始めた。

 テントを畳むと(もうキャンプは終わりか)と少し切ない気持ちになった。


アルファードにみんなの荷物を積み終えると温泉へ向かった。

「しゅっぱーつ」と言って、モモは右手を上げた。モモはいつでも元気だ。


車で30分程走ると温泉施設に着いた。それ程大きな温泉施設ではなかったが、こぢんまりとしていて、さっと温泉に浸るにはちょうど良さそうだ。

「うああぁー」温泉に入り、頭にタオルを乗せると、気持ち良すぎて声が出た。

 温泉に入るのは久しぶりだったので、最高に気分が良かった。

(ほんとうに大野に仕事押し付けてきてよかった)と心から思った。


温泉から出ると、アルファードで東京へ向かった。根津で大場を降ろし、三軒茶屋に着いた。

「ほんとに楽しかったねー」などと女の子達が話している。

「バイバーイ」みんなと解散した。


六本木駅から歩いて自宅に向かう途中、明日から仕事か、などと考えると、今回の楽しいキャンプとの落差に嫌気が刺した。

 でもユッキーのために頑張る、とユッキーの気持ちは知らないが、勝手に自分を鼓舞した。






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