第2話 合コンが如く

 合コンする場所の最寄駅[有楽町]のトイレの鏡の前で、ミトシュンは、鏡に映る自分に指を差し心の中で(今日もお前いけている)と呟いた。これは自己啓発系ユーチューバー、ヘマユキの教え「自分のことを褒めてあげましょう」という教えだ。


 鏡の前で鼻毛が出ていないかを確認し、髪の毛先をねじねじして髪を遊ばせる。最後に鏡を指差し、もう一度心の中で(おまえいけてる)と呟いた。


 一部始終を見ていた親子連れ〔父親30歳、子供5歳ぐらい〕の子供が父親に「あれなあに?」とミトシュンのことを指差し聞いていた。父親が小さな声で「見ちゃダメだよ」と言っているのが、微かに聞こえた。

 普通の人なら恥ずかしいが、ミトシュンは(どうせ2度と会わない馬鹿親子だ)と思っていた。


 そんなことより今日の合コンの相手は銀座の美容クリニックの受付の娘たち、と同僚で幹事の後藤が言っていた。期待大だ。可愛くないわけがない。

3対3の合コンで、もう一人のうちの会社のメンバーは、同じく同僚の大場だ。皆32歳で、もちろん独身だ。

 会社の役職で言うと、後藤は課長、俺と大場は課長代理というよくわからない役職だ。運転代行みたいな感じか。なんで、後藤は自分と大場より、少し偉い。

 ちなみに後藤は営業1課、俺は3課、大場は4課なので、一緒に仕事することはほぼない。

 入社した時は後藤と同じ1課だったが、今は3課に移動した。

 後藤とは仲がいいが、大場とはそんなに俺は仲がいいわけではない。というより会社で合コンや、飲みに誘ってくれるのは、後藤しかいない。意識高い系の俺にみんなついてこれてないのか?


 後藤が合コンを開いてくれる頻度は半年に一回ぐらいだ。、彼女がいる時は開いてくれない。別れるペースが半年に一度ぐらいだ。彼女のいない期間も短い。なので、俺にとっては半年に一度の貴重な合コンだ。

(しかも今日は女の子のレベルが高そう。楽しみすぎるスキップでもしていきたい気分だ。いやもうスキップしてしまおう)

 駅の改札を出ると、スキップをして合コン会場の飲食店に向かった。スキップをするとフランダースの犬のネロの気持ちがよくわかる。あの子もパトラッシュを連れてよくスキップしていた。最高の気分だ。


 飲食店に近づくと、徒歩2.3分程離れた場所で待機する。待ち合わせは19時だ。普通に間に合うが.5分程遅れていく。これは恋愛心理学系ユーチューバーの中野のぶよさんの〔転校生効果〕という心理を巧みに使った作戦だ。最後に登場するほど、期待をいだかせる、ということらしい。


 19時5分ミトシュンは合コン会場の飲食店、少し高級感のある日本料理屋に着いた。

(さすが同期の出世頭後藤、店選びもセンスがいいし、ぬかりないぜ)


 店の前で俺以外は集合していた。

「ごめん、遅くなりました」みんなに軽く謝る。

(ほんとは、とっくに着いてたけど)

 女の子3人を、舐めまわすようにミトシュンは見た。

 後藤に同期でいてくれてありがとう、と伝えたい。3人とも可愛い。

(地球に生まれてきてよかったー)

「とりあえず入ろうか」後藤が言う。

「そうだね」女の子3人と、俺と、大場も続いた。


 今日の後藤のファッションは、グレーのパンツに白のワイシャツで、ノーネクタイ、時計はアップルウォッチ、足元はクラークスのデザートブーツ、フォーマルになりすぎず、少しカジュアルも取り入れた女の子みんなから共感されそうなスタイルだ(やるな。後藤)ちなみに後藤は顔もいい。爽やか系で100ポイントでいうと90ポイントぐらいか。身長は175cmぐらいで、ほそマッチョ体型だ。


 大場のファッションは、紺のパンツスーツに後藤と同じ白のワイシャツでノーネクタイ、時計はいつも付けてるハミルトン、足元のビジネスシューズはどこのブランドかわからないが、高級感のあるダークブラウンのブーツだ。

 なかなかできそうな男に見える。顔は濃いめで、75ポイントといったところか。身長は170cmぐらいで、体型は普通だ。

(なぜ後藤は大場というそこそこモテそうな男をチョイスしたのか。もっとブスなやつ連れてこいよ)


 後藤は性格上まずみんなで仲良くなろうというスタンスだ。仲良くなってみんなでバーベキューや、キャンプとかを楽しみたいタイプだろう。だが俺は違う。まず第一優先はお持ち帰りだ。スタンドプレーの申し子、孤高のストライカー、好きに呼んでくれ。


 ミトシュンは80ポイントぐらいだと本人は思っている〔実際顔は悪くないが、見る人が見たら、眉毛剃りすぎで気持ち悪いと思う人もいる〕身長は172cmで、細マッチョだ。モテるための努力は惜しまない。


 お店の人に個室に案内されると、女の子3人を先に通した。俺ら3人は、後藤を真ん中に右に俺、左に大場という戦闘配置だ。負けられない戦いがそこにはある。

 みんながテーブルに着くと、飲み物を注文した。男はとりあえずビール。女の子たちは1人ビールで、2人レモンサワー、飲み物がくるとみんなで「乾杯!」


 後藤が少し照れた感じで「とりあえず自己紹介しようか」と言った。

「じゃあ俺から、後藤です。マミさんと大学時代から友達です。今日は集まってくれてありがとう。楽しみましょう」

(なかなかいい感じの自己紹介だな)ミトシュンは思った。


「じゃあ次大場で」後藤が言う。

「大場です。趣味はサッカーです。好きな食べ物は餃子です。こんなんでいい?」みんなに聞いた。

(当たり障りのない自己紹介だぜ)


「じゃあ次ミトシュンね」後藤が言う。

「水戸部俊です。みんなからはミトシュンって言われてます。今日は楽しみで昨日から眠れませんでした。ここまでスキップで来ました。よろしくお願いします」

(まさか実践してるとは思わないだろう)

「アハハ」女の子3人。

(つかみはOKだ)


 真ん中に座ってる後藤の友達が次に自己紹介を始めた。

「じゃあ私するね。マミです。趣味は映画鑑賞と動画を見ることです。好きな食べ物は、焼肉と寿司です」

(さっきの大場の流れを汲んだか)

ミトシュンは女の子の持っているバッグを見て性格などを判断する。マミさんはイッセイミヤケのバオバオの白のバッグだ。このタイプは清楚で、知的であることが多い。

 注 ミトシュンの偏見です

 だがマミさんはほんとに可愛い。清楚系で顔は95ポイントはいっているだろう。

(後藤は大学からマミさんと友達と言っていたが、こんな可愛い娘と一緒にいて発情することはないのか?俺なら毎回逆バイアグラみたいな薬を処方してもらわないと無理だ。マミさんとはどういう付き合い方をしてるんだ、教えてくれ、後藤)


 マミ「じゃあ次ユッキーね」

 ユッキー「ユキでーす。趣味はスノボとスキューバダイビングです。好きな食べ物はラーメンでーす」

(この流れは引き継ぐよな)

 ユッキーのバッグはバトンのホログラムだ。このタイプはアグレッシブなギャルであることが多い。

 注 ミトシュンの偏見です

実際ユッキーは髪の色も明るめでギャルっぽい。週末はクラブで遊んでいます。といったところか?顔は85ポイントぐらいか。


 ユッキー「じゃあ最後モモだね」

 モモ「モモです。今日は楽しみで8時間ぐらいしか寝れませんでした。ここまではリンボーダンスで来ました」

(まさかの俺の自己紹介の流れからのアンサー自己紹介じゃないですか。しかもけっこううまい)

 マミ「アハハ。モモは面白いんだよ」

 モモの持ってるバッグは黒のヴィヴィアンウエストウッドだ。このタイプは個性的で、こだわりが強いタイプが多い。

 注 ミトシュンの偏見です

 実際さっきチラッと足元を見たが、見たことないコンバースのオールスターを履いていたし服へのこだわりは強そうだ。顔は90ポイントといったところか。


 ミトシュンの前にはモモが座っている。真ん中にマミさん、その横にユッキーという並びだ。はっきりいって付き合えるのであればだれでもいい。土下座すれば付き合えるのであれば、速攻で深々と土下座もしよう。そのぐらいみんなスタイルもいいし可愛い。

 だがミトシュンは知っている。自分が清楚系と個性的な子にモテないことを。なのでミトシュンの狙いはユッキーだ。可能性は低いが隙を見せられば他の子もいくスタンスをとることにしよう。


 ミトシュンにはこの合コンに戦略があった。

 一つは中野のぶよ師匠が言っていた〔ミラーリング〕という戦略だ。この作戦は相手と同じ動きや仕草などをマネすることで、相手に共感を抱かせることができる。


 二つ目はミトシュンがいつも合コンで取り入れている話の中でことわざをぶっこみ、知的に思われるという戦略だ。今日チョイスしたことわざは〔人間万事塞翁が馬〕と〔人事を尽くして天命を待つ〕だ。二つとも使えればかなり知的でかっこいい。


 自己紹介が終わると、ミトシュンはとりあえずモモと話始めた。

 ミト「仕事何してるの?」

 モモ「美容外科の受付」

 ミト「大変そうだね」

 モモ「そうでもないよ」

 まずは当たり障りのないジャブからだ。

 モモ「ミトシュン達は何してるの?」

 ミト「建設会社の営業」

 モモ「そっちの方が大変そう」

 ミト「大変の時もあるけど、やりがいのある仕事だと思ってるから楽しいよ」

(そんな訳あるわけねーだろ。クソつまんねー)心の中で叫んだ。

 モモ「偉い!偉い!仕事に誇りを持ってる人って素敵だよね」

 好感触な会話の始まりだ。

 モモはテーブルの下で脚を組んでいたが、組み替えた。ミトシュンも すかさず組み替える。


 モモ「会社はどこにあるの?」

 ミト「人形町。モモさん達は銀座だよね。家から遠い?」

 モモ「家は初台だからそんなに遠くないよミトシュンは?」

 きたー♪───O(≧∇≦)O────♪

 ミト「あ、六本木」(気持ちいい)

(ドーパミン、セロトニン、オキシトシン、世田谷育ちのグルコサミン、脳の快楽物質全てが出てるのを感じるぜ)

 マミ「水戸部君六本木なんだ!カッコヨ」

 隣からマミさんが入ってきた。

 後藤「こいつ六本木けっこう長いんだよ」

 後藤も入ってきた。後藤は築40年のボロアパートに住んでいることは知っているが、この場では俺のために言わないだろう。逆の立場なら俺は真っ先に暴露している。

(ごめん、後藤。来世では生まれ変わるから、今世では我慢してくれ)

 マミ「六本木って家賃高くないの?」

 ミト「それほどでもないよ」濁す

(実際7万だけど、絶対言わん)


 前に目をやるとモモが手を上にあげ伸びているのが見えた。すかさずミトシュンも伸びる。

(こいつ私のマネしてない?)モモが勘ぐった。とりあえず手をアゴに置いてみる。

 ミトシュンもすぐに反応する。

 モモは負けず嫌いだった。

(ほほー!どこまでついて来れるか勝負よ)

 モモは変顔を2回した。ミトシュンも変顔を返す。モモがバントの構えをする。ミトシュンもすかさず対応する。モモが席を立ち上がった。少し脚を開き、腕を股の下からVを描き「コマネチ」と堂々と言い放った。ミトシュンも立ち上がり「コマネチ」とポーズを決めた。

 みんな笑っていたが、後藤から「君ら何してんの」と冷静なツッコミが入った。

 モモ「ミトシュンが私のマネしてるの」

 ミト「してないよ」

(なかなか根性あるじゃない)とモモは思っていた。


 暫くおのおの談笑していると、モモがなんか楽しいゲームしようと言いだした。

 大場「山手線ゲームみたいなやつ?」

(大場いつの時代だ)

 後藤「じゃあこっちの会社はこっちの会社で、マミさん達はマミさん達で、隣の人の良いところを言い合うなんてどうかな?言えなかったり、エピソードが弱かったりしたら負け」

(なんて素敵なゲームなんだよ。思いついた後藤すごし)

 モモ「負けた人はこの中で一番気になってる人を言うなんてどうよ?」

 みんな「オッケー」

 モモ「じゃあ言い出したゴッチンから手本見せて」

(勝手にあだ名付けるタイプっすね)


 後藤「じゃあエピソードミトシュンから」

(めちゃくちゃ興味あるぜ。後藤、俺の良いところ1を100にして伝えてくれ)

「新人の頃こいつと2人で部長に朝から呼び出された時があって、見積りの金額一桁間違えてたって取引先から連絡あったって30分ぐらい2人で死ぬほど怒られのだけど、俺はめちゃくちゃへこんでたら、こいつに『何へこんでんの?』って言われて『おまえはどうなんだ』って聞いたら『あんなハゲの言うこと気にするわけない』って言ってて、強がってるだけかなって思ってたら、昼飯に二郎系ラーメンの店に並んでた。死ぬほど怒られた後に二郎系食えないでしょ。後でこいつに聞いたら『もちろんニンニク増し増し』って言ってた。なんかへこんでんの馬鹿らしいと思えた。どう?」

(そんなことあったんだな全然覚えてないわ)

 モモ「合格!素敵な話じゃん。じゃあ次ゴッチンの良いところミトシュンが言う番」


(やべ、話聞いてたから考えてなかった。半年に一回合コン開いてくれる。違うなここで言うことじゃない。やばい後藤の良いところ出てこないぞ。いっぱいありそうだが。そうだ)

「先月なんだけど、自動販売機の前で財布を見たら細かい小銭が80円しかなくて、困ってたら後藤が通りかかって『40円貸してって言ったら』『返さなくていいって』器でかいなっておもって。どう?」

 モモ「どう?じゃねーわ。ミトシュン罰ゲーム決定」モモはみんなに指を立てた。

 後藤「てかおまえ、10年も一緒にいるのにそんなエピソードしか出てこなかったのかよ」

 みんな「アハハ」

(確かに)


 モモ「さぁ3人の中で気になってる子を言いなさい。私でもいいのよ。理由もつけなさい」モモは人一倍楽しそうだ。

 ミト「ふー」一息つく(ここは正直に)

 ミト「ユッキーです」

(理由は一番お持ち帰りできる可能性が高そうだから。だが心に閉まおう)

 ユッキー「ええ。でもなんか嬉しい」

 ミト「理由は最初見た時ビビビっときたからっす」

 モモ「じゃあ席代わってあげる」


 ユッキーがミトシュンの席の前にきた。少し酔っているのか、頬がほんのり赤くなっていて可愛い。近くで見ると90ポイントはありそうだ。


 ミト「美容外科の受付なんだよね。変な客とか来たりしないの?」

 ユッキー「たまにいるかなー。この前も男の人で診察券出す時話かけられてー『ジャギとアミバだったらどっちと付き合う?』って聞かれてなんのことかわからなかったからー『ジャギ』って答えたら『よくできた弟ー』とか言ってた。たまに変な人いるんだよねー」

 ユッキーは舌足らずな喋り方でバカっぽくて、少しエッチな感じがして最高だ。中学校の時の偏差値は40前後だろう。

 注 ミトシュンの偏見です

 ミト「ストレス溜まりそうだね」

 ユッキー「たまにねー」

 ユッキー「ミトシュンはストレスとかないのー?仕事の心配ごととか多いんじゃない?」

(ここだ)

 ミト「俺はやることやったら後はどうなるか考えないようにしてるから。人事を尽くして天命を待つって感じかな」

 ミト(決まったぜ)

 ユッキー(何言ってるかわかんなーい)


 楽しい時間はあっという間に過ぎ、退店する時間になってしまった。

 後藤「みんなもう1軒大丈夫?」

 みんな「大丈夫!」

 モモ「カラオケ行こう!

 店を出ると女の子達が先に歩き出した。後ろから男どももついていった。女の子達は横並びで肘を絡ませて歩いている。

(仲良さそうだな)ミトシュンは少しあったかい気持ちになった。

 ときどきユッキーがふらついているのが見えた。

(お持ち帰り確率上昇中!!)


 5分程歩いた時に、ふらついたユッキーと男がぶつかった。

「イテーなコラ!」荒々しい声がした。

 見るからに堅気ではなさそうだ。上下黒のジャージにサンダルを履いていた。身長も180cmぐらいあり、ガタイもよく、スキンヘッドだった。

(まずいな)ミトシュンはすぐに察知した。

男はマミさんの肩を強引に寄せ、肩を組んだ「ねーちゃんずいぶん可愛い顔してんな」

「嫌がってるじゃないですか。やてめください」

後藤は男の腕を掴み、マミさんから男を引き離した。

(てめー、後藤そこは『兄貴ー。いい女選びましたね』だろうが。後藤のせいで向こうも引いてくれないだろう)ミトシュンは頭をフル回転させた。この状況を乗り切り、ユッキーをお持ち帰りするにはどうしたらいいのかを。

(このまま後藤に任せてもダメだろう。そう言えば俺はサラリーマン金太郎に憧れて建設業界に入ったんだったな。こんなシーンあったな。こ・れ・だ)


 後藤の胸ぐらを男が掴もうとした時、ミトシュンが割って入った。

「ちょ、待てよ」低めの声で言った。

「なんだてめー。やんのか」荒ぶった声が、騒がしい飲み屋街に響いた。

「こんな人通りのあるところでする?裏行きません?」ミトシュンの脚は生まれたての子鹿のようにガタガタ震えそうだったが、この場を乗り切ればユッキーをお持ち帰りできると信じ、エロパワーで脚の震えを止めた。

「昔の俺に戻っちゃいそうだから先に言ってて。絶対ついてくるなよ」ミトシュンは後藤にだけ話した。


そのままミトシュンと男は裏の方へと歩いて行った。

「水戸部君大丈夫かな?」マミさんが後藤に心配そうに話した。

「心配だけどあいつみんなを巻き込みたくないみたいだから、汲んであげよう」

 ミトシュン以外は少し重い足取りで、とりあえずカラオケに向かった。


 一方、ミトシュンと男は細く薄暗い路地へ入って行った。

「ずいぶんと生意気な・・」男が言いかけた途中で、ミトシュンが土下座している姿が見えた。

 ミトシュンは土下座をしながら震える手でケツのポケットから財布を取り出した。財布の中から無造作に入っていた札を全部抜き出した。2万4千円入っていた。手が震えているので、札束がバタバタなびいた。

(おーー!サラリーマンを舐めんじゃねー!)心で叫んだ。渾身の力で男に札束を献上しようとした。

「なにとぞー」「なにとぞー」ミトシュンは藁をも縋る気持ちで2回懇願してみた。

「なんてなさけねー男なんだ」ミトシュンが持っている札束を荒々しく取る。

「殴る気も起きねー。このゴミが」男が呆れ、蔑むように言う。

「はい。虫ケラです」相手の気持ちを逆撫でしないように言った。

 男は踵を返し、帰ろうといていた。ミトシュンも立ち上がろうとしたが、男が振り返る。

「やっぱ1発殴らせろ」

「顔だけはやめていただけないでしょうか

 ミトシュンはオロチドッポのサンチンの構えをした。この構えはすべての攻撃を無効にすると言われている。

 男は拳を振り上げると思いっきりミトシュンの腹にパンチを入れた。

「うぁぁぁー」唸り声が出た。死ぬほど痛いし、息が出ない。

「もう一丁」

 もう一発腹に入れられた。

「ぅぁぁぁーー」痛みで地面を転げ回る。口からは唾液と、胃液が混ざった物が口から溢れる。嫌な酸っぱさを感じる。

「次会ったらこんなもんじゃ済まさねえぞ」と言い去って行った。


(助かった・・)ミトシュンは少し安堵したが、腹には刺すような痛みがまだ残っていた。

(鶴の恩返しの鶴より見られたくない場面だったぜ)

 腹の痛みが治ってきたので、後藤に連絡を入れた。

「大丈夫か?」後藤の真剣な声が聞こえる。

「バチコーンいってやったぜ。見せてやりたかったぜ」ミトシュンは最大限の見栄をはって答えた。

(死んでも見せれねー)

「先入ってて。すぐ行く」ミトシュンはそう言うと、携帯を切りカラオケ屋に向かった。


 カラオケ屋の近くに着くと後藤からラインが入った「405」

部屋の中に入ると女の子達が羨望の眼差しを、ミトシュンに送っているように見えた。

 みんなヒーローの登場を待っていてくれたのだ。

(全員抱いてやる)

「大丈夫だった?」みんなから心配された。

「余裕。なんかー少し昔思い出して恥ずかしいわ。あの時はしょっちゅうしてたから」何事も無かったかのようにミトシュンはみんなに話した。

 だが大嘘だ。ミトシュンは1度も喧嘩などした時もない。1人っ子でお母さんに大切に、甘やかされて育ったぐらいだ。

「まぁ、みんな歌おうぜ」先程起こった事を気にかけないようみんなに言った。

「オー!」


 横に目をやるとユッキーが相当眠そうだ。

 1曲目はマミさんの「大人ブルー」

(歌声も可愛いぜ)

「ハア」の部分も気合いを入れて歌ってて、普段からノリのいい子なことを窺わせる。

 1曲目の途中でユッキーは寝てしまった。

 みんなノリがいいので、カラオケは大いに盛り上がった。

 たまにユッキーが起きてきて、ミトシュンのことをペチペチ叩く「わしのことが好きなんじゃろ」と言っては、すぐ寝てしまう。

 モモが言うにはユッキーは広島出身で、酔って広島弁が出始めるとタチが悪いとのこと。

 ユッキーがすっと立ち上がり、ミトシュンの前で叫んだ「送れー!」家まで送れと言いたそうだ。また寝てしまった。その様子を見て後藤とマミさんが、何か話し合っていた。暫くすると俺の方へ来て、ユッキーを家まで送ってくれないかと提案された。

 キター♪───O(≧∇≦)O────♪

 みんなを残してユッキーをおぶり、カラオケの室内でみんなにバイバイをした。

「へんなことしちゃダメだよ」 

(マミさんのお願いでもらそれだけは守れないぜ)

「悪いな」

(後藤、日本語の使い方間違えてるぜ)

 ユッキーをおぶっていると背中越しにおっぱいの感触が伝わってくる。

(Cカップだろう)


 店の外へ出ると、タクシーを拾い、迷う事なくタクシーの運転手に「鶯谷」と伝えた。鶯谷は都内屈指のラブホ街だ。

 ホテルに着くと空いてる部屋が光っているモニターの前にワクワクした気持ちで立ち、部屋を選んで、空いてる部屋のボタンを興奮しながら押した。現金はないのでルーム料金をカードで払った。


 ベッドにユッキーを静かに降ろした時大事なことに気づいた。全然ムスコが元気じゃない。

 たぶん酒の飲み過ぎだ。酒を飲むと勃たないことはたまにある。

 ユッキーは寝ているが、おっぱいを揉んでみた。ダメだ。クラ⚪︎よりたちそうにない。ハイ⚪︎は寝てしまっている。この状況で起こしても最後までできないだろう。ハイ⚪︎ではなく、丹⚪︎が必要だ。

「立てー!立つんだクラ⚪︎ー!」

(世界観のミスマッチ半端じゃないな)


しょうがないので、たまにおっぱいを揉みつつ寝ることにした。


 アラーム音「ツクテンテテンテン ツクテンテテンテン」

 アラームをら止めるとユッキーもまだ眠そうに起きた。

 ユッキー「ここどこー?」

 ミト「ホテル」

 ユッキー「なんでそんなとこにいるの?」

 ミト「ユッキーが行こうって言ったんじゃん」(嘘だが)

 ユッキー「してないよね」

 ミト「してない。しちゃダメ?」

 ユッキー「ダメ。彼氏としかしなーい」

 ミト「嫌だ。嫌だ」駄々を捏ねてみる。

 ユッキー「絶対ダメー」

 ミト「わかり申した」

 勿体無いが、強引にするのはさすがに後藤に申し訳ないので、チェックアウトして駅まで向かった。駅に向かう途中ユッキーの方から肘を組んできた。たまにおっぱいがあたる。何か手はなかったのかと後悔の念が走る。

 ラインを交換して駅で別れた。

 ユッキー「バイバーイ」

(別れるのが辛いぜ)


帰り道、10月上旬の冷たい風に心が少し寂しくなるのを感じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る