第5話 行き先は
「ジジイの魂胆なんて知らねえよ。とにかく今は、これからどうするのかを考えろ。それ以外の事は全部後にしろ。……それでどうするんだよ、ここから出るのか、俺達を捨ててこのクソみたいな国と一緒に朽ち果てるのか。まぁ、その時までお前が生きてる保証もないけどな」
「どうするって急に言われても、まだ状況もよく分かってないのに簡単に決められないよ。それにこの国を出るにしたって行くあてもないし、命がいくらあっても足りないよ。この国だってずっとここで育ったのに見捨てるなんて僕には」
「自惚れんのも大概にしろよ。お前、自分がヒーローになれるとでも思ってんのか? ガキのお前に何が出来る? あのジジイでも簡単に死んだのに何も持たないお前にいったい何が出来る? 自分にしか出来ない何かがあるなんて勘違いすんなよ。お前に出来るなら他の奴が先にやってる。今までは思い通りに出来たかもしれねえけど、それはお前が一人じゃなかったからだ。なんでも自分の願いや思いがその通りに行くわけじゃねぇ。もし、お前にしか出来ない事があるとするなら、それはこの国を出てジジイの願いを叶える事くらいだ」
この妖精が言っている事は全て正しいと自分でも思ってしまったから何も言い返せなかった。何も出来ない自分と現実を突きつけられた苦しみや痛みとで悔しくて、再び涙が溢れ出てしまう。それを見た妖精が続けて言う。
「泣いてこの国が変わるならいくらでも泣けばいい。けど、実際はジジイも誰も助けに来てくれない。お前がこの現実を受け入れて自分自身の足で立って強くなるしかないんDっ」
ルーは泣いている僕を見て、今度は高くジャンプして妖精に飛び付きそのまま地面に叩きつけた。背中から地面に着地した上にルーの体重までのしかかっていたからかなり痛そうな顔をしていた。
「痛えって!! 俺はこの先のことを考えて話してるだけだ!! 邪魔すんな暴力猫」
「……でも、外に出るって言ってもどこに行けばいいのかもわからないし、冒険者でもない僕が一人でなんて……」
「俺達がいるだろ。まぁ俺はお前の安全が保証されるまでだけどな。……あとそれから、行くあてなら一応あるぞ」
「一体どこに」
「妖精の星」
「え、それってもしかして絵本の妖精の星のこと? でもあれって架空のお伽話なんじゃないの?」
「あれは実際に存在する場所だ。妖精と妖精が認めたほんの一部の人間のみが暮らしている。そこなら、きっとジジイの望み通りお前とその暴力猫も一緒に自由に暮らせるはずだ」
僕は、黙り込んだ。確かに妖精達が一緒にいる以上ここで過ごす事は出来ない。とはいえ、他の人達を置いて僕一人だけ安全な場所で呑気に生きることもしたくない。
「それから……噂だけどそこには妖精界最強の妖精がいるらしい。もしかしたらこの国の問題を解決出来るかもしれない。勿論、その妖精次第ではあるが、それだけの力を持っているなら掛け合ってみる価値はあると思う」
「もし解決できたら、また妖精と人間が一緒に安全に幸せに暮らせる?」
「そこまでは分からないし、正直興味もない。ただ、今よりはマシな生活はできるんじゃねえか?」
「その妖精の星にはどうやっていけばいいの?」
「知らん」
「え? でもさっき……」
「俺は、行くあてがあると言っただけだ。行き方までは知らん」
「でもじゃぁ、どうやって……」
「……妖精の星への手がかりになるとするなら絵本を書いた作者がきっと何か知っているはずだ」
僕は引き出しに大事にしまっていた一冊の絵本を取り出した。昔は、この絵本が大好きで毎晩じいちゃんに読み聞かせてもらっていた。寝る前のじいちゃんとのその時間が何より楽しかったのを今でも鮮明に覚えている。絵本の表紙に書いてある作者の名前を見る。この人が妖精の星について何か知っているのか。
「この人は、今どこに?」
「今時のガキは何でもかんでも聞きやがって。少しは自分の力でなんとかしろよ」
さっきまで聞いたことには殆ど答えてくれてたのに、突然逸らすような言い方をしてきて、僕はルーと目を合わせてから質問を変えてみた。
「……もしかして、それも知らないの?」
「うるせぇー! ってか、なんでそれで俺が悪いみたいな空気になってんだよ!」
ルーはため息をついて呆れた様子でもう一人の妖精を見ていた。僕は、絵本の最後のページを開いた。そこには、作者の他に出版社とその住所などが書かれていた。
「この住所に行けば何かわかるかも? この絵本は元々輸入品だからこの国で作られたものじゃないのは分かってたけど、どちらにしてもこの国を出ないと始まらないってことだよね」
「じゃあ、これで決まりだな。今日中に荷物まとめて日の出前には出発するぞ」
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