第4話 妖精
僕は初対面での口の聞き方に少し苛立ちを覚えたけれど、今はそれどころではなかった。
「もしかしてじいちゃんを知ってるの!?」
「あ? 手紙読んでねぇのか?」
「え、あ、一緒に入ってた手紙なら読んだけど…」
「は? なら、知ってて当然だろ。俺は、アイツの頼みでここにいるんだから。そんなこと考えれば分かるだろ」
「じいちゃんの頼み?」
「はぁ、お前ちゃんと手紙読んだのか? お前をこの国から連れ出すんだよ。だるいからいちいち説明させんなよ。だから手紙書かせたのにこれじゃ意味ねぇじゃん」
僕はこの妖精が苦手だ。
「この国から連れ出すって言ったってどこに行くの? それにここに居る人達はどうするの? この国で一体何が起こって」
「あー!! うるせぇぇ!! 質問ばっかで鬱陶しいなぁ。いいか、俺は聞かれたらなんでも教えてくれるお前のジジイじゃねぇんだよ。俺がここにいるのはアイツに借りがあるからそれを返すだけだ。お前と仲良く冒険するつもりも、ましてやヒーロー気取ってお国を救いましょうなんて自殺行為する気もねぇから。どっかのバカみたいに正義感だけで行動しても無駄死に早死にするだけなんだから。分かったらとっとと荷物まとめてこの国から出るぞ」
最後のは、名前を言わなくてもじいちゃんのことを言ってるんだってすぐに分かった。
じいちゃんは、いつも困っている人がいたら誰彼構わず助ける人だった。じいちゃんがまだ冒険をしていた頃、赤ちゃんだった僕はじいちゃんに救われた。僕は、森の中で捨てられていたらしい。家や拠点を持たない冒険者は少なくない。だから子供が産まれても外の危険から我が身と子を守りながら生活することはかなり無理があった。その為普通は、子供が出来たら冒険者をやめて国の中で生活するか、子供を養子に出すかがほとんどだった。だけど、その日食べるのもやっとで国の中で生活できるほどのお金を持っていない者達も少なからず居る。養子に出そうにも病院や、産むことでさえ、どうしてもお金がかかってしまう。そんな人達の取る手段は、誰にもバレずに自力で子を産み、誰にも見つからずに捨てること。それに加え多くの国では親の義務を放棄し、子を殺す事は終身刑ほどの重罪。勿論この国もそう。だから、誰にも見つからない外の森などに産まれた子を捨て、魔物に証拠隠滅をしてもらう。きっと僕もその一人だった。
だけど、じいちゃんはそんな僕を拾って育ててくれた。当時じいちゃんの暮らす国に戻るのにもまだかなりの距離があって、自分の分の食料も足りないって分かってても、じいちゃんは僕を拾ってくれた。
そんなじいちゃんの優しさをずっと見てきたからこそ僕はすごく腹が立って、僕の服を掴んで動かそうとした妖精をベッドに突き飛ばしてしまった。
「痛えなぁ! 何すんだよ!」
「じいちゃんの死は無駄死にじゃない!! 君にじいちゃんの何が分かるんだよ! よく知りもしないじいちゃんのことを簡単に悪く言う奴は僕が許さない!」
妖精は起き上がり、鋭く睨みつけ低い声で言った。
「許さなかったら、どうすんだよ。お前のやジジイの尊厳を傷つけられた云々で言い争う暇はねぇんだよ。揃いも揃って自分の置かれてる状況も理解せずにその場の感情だけで動きやがって。いいか、今大事なのは、尊厳だのプライドだのを互いに話し合って尊重し合って仲良しこよしする事じゃねぇ。いい加減現実に目を向けろ。お前の大好きなジジイはもういないんだよ」
僕はこの妖精が嫌いだ。
分かってる、全部。この妖精の言ってることが正しいってことぐらい。でも、それでも、正しいことだけを選んで生きていけるほど僕は強くない。悲しみや苦しみの感情があまりに大きすぎて、もう何も考えられないんだ。どうしていいか分からないんだよ。じいちゃんに会いたい。助けて。
けれど、その想いすらも言葉には出来なくて、ただ大粒の涙だけが出てきていた。
「チッ、ワーワー言ったりメソメソ泣いたり、めんどくせーガキだな本当。……とりあえず、もう一つの開けろよ」
そうだった。この妖精に気を取られて、忘れていたけどもう一つ、橙色の卵型箱もあった。もう一つにも多分妖精が入っているけど、この妖精と同じようなのは正直もう懲り懲りだ。
涙を拭いて、それを手に取り恐る恐る開けてみる。そして、中から出てきたのは僕のよく知る妖精だった。
「ルー?!」
ルーは、僕が初めて作った人形から産まれた猫の妖精。飛び出たルーは、僕のベッドの上に乗った。そして、僕の泣き顔を見るなり、もう一人の妖精の近くまでいき、後頭部に一発パンチをくらわせた。気持ちのいい音がした。
「痛っ!! なんだよ俺は本当のことを言っただけだ!」
互いのおでこをぶつけながら威嚇をする二人。埒があかないと思ったのか人形の妖精がルーのパンチが届かない所まで飛んで離れた。
「全く、飼い主によく似た暴力猫だな。てか、お前コイツにデブの飲み物みたいな名前つけてんのな」
「なんで、ルーまでここにいるの?」
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