第6話 出発の準備

「そんなに早く出発するの!?」

「いつ誰がここに来るか分からないだろ。やるべきことが決まったんだからもうここに居る理由はないだろ」

確かに、妖精狩りは今でも行われていて、いつ誰がここに来るかも分からない以上、妖精と一緒に生活するのは僕達にとってはリスクしかない。でも、ここはじいちゃんとずっと暮らしてきた場所だ。この家にもこの国にも全部じいちゃんとの思い出が残ってる。この家を見渡す僕のことを見て何かを察した妖精が口を開く。

「ここにある物や思い出はお前が戻って来る日まで消えたりはしないだろ。そうなる前にきっとお前はここに戻ってくるんだし」

ずっと言い方はきついけどこの妖精は、僕に前を向かせようとしてくれている。それに理由はわからないけど、僕と一緒に来てくれるって言うし、僕の見方を変えれば良い妖精なのかもしれない。

「うん。じいちゃんと暮らしてきたこの国を元の生活に戻す」

「なら、さっさと準備しろ」

僕は工房の地下室へと向かった。地下室には人形作家が使う道具や素材がいくつも保管されていたり、過去にじいちゃんが冒険者だった頃の武器や防具も保管されていた。

外に出るなら武器と防具もきっと必要になるだろうから、使えそうなら持っていこう。でもその前にもっと大事な物がある。軽く物色しながら本命を探しているとそれらしい大きな木箱が入り口から隠れるように一番奥に置いてあった。なのに、他の物とは違ってホコリは一切かぶっていなかった。木箱の中を開けると、超レア素材と一級品の人形作家専用道具が一式揃えられていた。

数年前、じいちゃんと素材を集めに一緒に旅をした時、じいちゃんが目的の素材とは別にたまたま超レア素材を見つけたことがあった。その超レア素材を使って生み出された妖精は、通常では習得しないものをいくつか習得して生まれることができる。妖精を持つ者が全員欲しがる代物だった。僕はこれが終わって帰ったら早速超レア素材の人形を作る所を見たいと懇願したが、じいちゃんはこれは一番使うに相応しい人に使ってもらうよと言った。だから僕はてっきりその人に譲るか売っていたのだと思っていた。

それが、ずっとここに保管してあったなんて……。じいちゃんの言葉や優しさを思い出せば出すほどまた涙が溢れてくる。そこに、妖精が飛んでやってきた。

「こんなホコリくさい所で何やってんだ? 準備してんの、かってお前またメソメソ泣いてんのか。男のくせに本当に情けねぇな」

ああ、やっぱり見方を変えても僕はこの妖精が嫌いだ。

涙を拭って木箱に入っていた全ての物をリュックに入れた。ついでにさっき見ていた防具と武器も見てみる。

「それ、誰かが使用してるんじゃねぇの?」

「うん、じいちゃんが昔冒険してた頃の物」

「じゃあ、使えねぇじゃん」

「一個でも未使用の物がないか探してるだけ……あ、あった!」

じいちゃんはいつも物をストックする人だったからもしかしてと思っていたら、まだ未使用の武器と防具を見つけた。優れている物ではないけれど、無装備で行くよりはよっぽどいい。他にも使えそうな物は全部持っていくことにした。それから、食べ物の調達をする為、街に来た。勿論、妖精達は元の箱に入ってもらって服の内ポケットに隠してある。いつもじいちゃんと買いに行っていた商人のおじさんの所にやって来た。

「おう、坊や久しぶりだな。今日はこんなに買ってどうした? まさか、夜逃げでもする気かぁ?」

なんておじさんはいつもの冗談を言って、僕を元気づけようとしてくれている優しい人。でも今回は殆ど当たっている。

「うん、実は僕この国から出ることにしたんだ」

「なんだ、随分急な話だな。一体何故?」

僕はさっきまでの出来事を全て話した。

「……そっかぁ、そんなことが。まぁでも今のお前さんにはその方がいいのかもしれねぇな。ここにいても辛いだけだろうし。でも、気ぃつけてな。外は危険がいっぱいだから。そうだ、これはおまけだ持っていきな」

「うん、ありがとう」

僕は買った物とおまけのりんごを持って家へと戻った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る