第2話 現実

 ……そう、これは夢だった。

 幸せだった時の夢から冷たい朝日に当てられ目覚めた僕は、重たい身体を起こした。静まり返った家の中。工房にはついこの間まで居たはずのじいちゃんももういない。工房から見えるお店の入り口も大きなバツを作るように、黄色と黒のテープが外から貼られていた。

ある日突然全てが変わってしまった。一ヶ月前妖精が人を殺したとの報道が大々的に広まった。

元々妖精は、それぞれの結晶石に応じて属性が決まり、その属性に対応した魔法が使える。火の結晶石なら火属性の魔法、水の結晶石なら水属性の魔法。魔法にもそれぞれ階級があり、下級、中級、上級そして最上級の魔法が存在している。上級、最上級魔法を使える妖精も限られていて、人形作家が作る人形、結晶石、妖精のバディとなる人間の能力値、その全てがAランク以上でなくてはならない。その条件が満たされた妖精のみが上級や最上級魔法が使えるようになる。当然、階級が高い魔法ほど妖精や人間にも危険が伴い、時に命を落としてしまう妖精や人間もいる。けれど、それらは不慮の事故として大きな問題になることはほとんどない。

だけどここまで大きな問題に発展したのは命が失われた人物とその内容にも原因があった。命が失われた人物はこの国の王様。そして、妖精が最上級魔法を使い故意的に王様を襲い殺したのだ。それにより殺された王様の息子が新たな王になり、この国は大きく変わってしまった。

新たな王はすぐに動いた。まずは、妖精のバディと人形を作った人物の捜索と捕虜。そして、妖精を所持することを禁ずる法を新たに設立した。勿論、国民は大反対をした。デモを起こす人達も当然いた。今や妖精と人間は共に生きるのが当たり前の生活で、妖精が居なければ生活も何も出来なくなる人が多くいたからだ。それでも王は国民に聞く耳を持たず、無理やり妖精狩りを始めた。

王様を殺した妖精のバディは見つからなかったが、妖精を生み出した人物を見つけるのは早かった。なぜなら、この国でAランク以上の人形を作れるのは、じいちゃんしかいなかったからだ。そうしてじいちゃんは王に捕まり、捕虜の身となった。

多くの人や妖精に愛されてきたじいちゃんだったからこそ、そこで更に国民の反感を買ったが、それでも王は仇を取るべく強行突破に出た。

それが一週間前の出来事。じいちゃんは数体の妖精と共に、国民の前で公開処刑された。

多くの国民が悲しみの声に溢れかえった。それほど人々にとって、妖精にとって、そして何より僕にとってじいちゃんは大切な存在だった。

僕の大切なものが全て失われたあの日から一週間が経っていた。今の僕にとって今日見た夢は、現実の僕を追い詰める絶望の夢でしかなかった。

あのまま夢から覚めなければよかったのに、そう何度思っても願っても、独りの世界に連れ戻されてしまう。

何もやる気が起きない、何をすればいいのか分からない、ただ、時間が過ぎていくのを待っていた。それしか出来なかった。

静まり返った家の中の空間をただじっと見つめていると、ここではない記憶の中に入り込む。

最初は決まってじいちゃんとの楽しい毎日。だけど気がつくと、処刑された時の記憶にいつの間にか変わっている。思い出したくない記憶や感情ほど鮮明に思い出されてしまう。

ほら、またじいちゃんが処刑台に立たされた。この後、近くにいる処刑人によってじいちゃんは首を切られる。

処刑人が斧を大きく上に振り上げた瞬間、現実から呼び鈴が聞こえて、僕はじいちゃんの処刑される前に現実に引き戻された。

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