第8話 無限エレベーターの試練

遠藤紘一は、街外れに忽然と現れた高層ビル型ダンジョンの前に立っていた。その名は「無限エレベーター」。ボタンを押すとどの階に行くかはランダムで決まり、同じ階に戻ることもあれば、全く未知の階層に飛ばされることもあるという。探索者の持久力と集中力を徹底的に試す、まさに過酷な挑戦だ。


「……またもや、時間と体力勝負やな」


紘一は懐中電灯とリュックを確認し、階段ではなくエレベーターに乗り込む。ドアが閉まると、周囲の光は一瞬消え、暗闇に包まれる。静寂の中、無限階層が彼を迎え入れる。


最初の階はオフィスフロアのような空間だった。デスクや椅子が整然と並び、かつての会社の光景を思い起こさせる。しかし、次の瞬間、エレベーターは急に加速し、未知の階に飛ばされた。床や壁が歪み、通路がねじれ、視界は混乱する。


「落ち着け、紘一……一階ずつ確認や」


彼は深呼吸し、目の前の環境を分析する。各階には小型モンスターが点在し、攻撃のタイミングや位置は階ごとに異なる。持久力と集中力が求められるため、無理に戦わず、効率的に倒すことを意識する。


最初のモンスターは、コピー用紙の束を盾に攻撃してくる小型ゴブリン型。紘一は攻撃をかわしつつ、弱点を見極める。社畜時代、時間制限の中で複数の業務を同時に処理してきた経験が、ここで役立つ。効率的に動き、無駄な体力を消耗せずに突破する。


次の階では、通路の途中に仕掛けられたトラップが紘一を待ち受ける。床の一部が沈み込み、落下の危険があるが、慎重に観察すれば回避可能だ。紘一は歩幅や足の角度を微調整し、完璧に回避。社畜時代、失敗が許されない締め切りやプレゼンの緊張感を乗り越えた経験が、ここでも生きる。


無限エレベーターの試練は、単なる体力勝負ではない。階層が進むごとに、モンスターの攻撃パターンや罠の配置が複雑化し、集中力を持続させることが最重要となる。紘一は短時間の休息ポイントを見つけ、深呼吸して精神を整える。


「焦ったら終わりや……冷静に、一階ずつ攻略や」


数十階を超えたあたりで、エレベーターは一気に未知の階に飛ばした。そこには、巨大なオフィスモンスターが待ち構えている。複数の腕で書類や椅子を投げ、通路を封鎖する強敵だ。紘一は攻撃パターンを冷静に分析し、効率的に回避と反撃を繰り返す。


「怒り覚醒……今こそ発動や」


社畜時代、理不尽な上司に耐え続けた怒りが、ここで攻撃力となる。紘一は短時間で連続攻撃を叩き込み、巨大モンスターを撃破。体力は消耗したが、集中力を維持したまま最深階に到達することができた。


最深階には、光り輝くオブジェクトが浮かんでいる。触れると、紘一の持久力と集中力のスキルが成長する感覚が全身に広がった。無限エレベーターは、ただの戦闘ダンジョンではなく、精神力と体力を限界まで引き出す試練だったのだ。


出口に戻ると、夜明けの光が街を照らす。遠藤紘一は深く息を吐き、肩の力を抜く。無限階層を生き抜いた自信と、冷静さを保った達成感が胸に満ちていた。


「よし……これで、次の挑戦も怖くないな」


自由を手にした探索者として、紘一の旅はさらに続く。無限の階層を乗り越えた男の冒険は、まだ終わりを知らない――。


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