第3話 残業モンスターと時間管理
朝の光が街に差し込むころ、遠藤紘一は次なる挑戦を前に準備を整えていた。退職後、完全に自由になったとはいえ、ダンジョン探索は決して気楽なものではない。特に今回は「残業モンスター」が出現するという噂を聞いていた。
残業モンスター――その名の通り、時間を吸い取り、疲労と焦燥感を押し付ける強敵である。通常の戦闘力も高いが、何より厄介なのは、戦いの途中で時間制限が設けられており、ダンジョン内での「判断ミス」が即死に直結することだ。
「……なるほど、時間管理が鍵やな」
紘一は小さく呟く。会社で培った残業地獄耐性と、常に締め切りに追われてきた経験が、ここで生きる瞬間が来たのだ。戦闘だけでなく、タイムマネジメントも生存術のひとつになる。
ダンジョン入口は、オフィス街のビルの一角に出現していた。見た目は普通のビルだが、内部に足を踏み入れると、廊下や会議室、コピー室が無限に繋がる迷路と化していた。壁の時計は全てバラバラに進み、時間の感覚を狂わせる仕掛けがある。
「焦るな、紘一。冷静に、計画的に動くんや」
心の中で自分に言い聞かせ、まずは周囲を観察する。廊下の角には小型残業モンスターが潜み、書類の束を盾に攻撃してくる。攻撃のタイミング、移動経路、休息可能なポイントを即座に判断する。
「まずは回避ルートを確保……次に攻撃……そして脱出経路の確認」
紘一の頭の中では、かつて会社で複数のタスクを同時進行していた経験がフル稼働していた。攻撃をかわしつつ、敵の隙を突いて反撃。小型モンスターは次々と倒され、紘一の体力ゲージはほとんど消耗しない。
しかし奥に進むにつれ、残業モンスターの数は増え、時間制限も厳しくなる。巨大なモンスターが現れた瞬間、部屋全体の時計が一斉に動き始めた。秒針の音が耳鳴りのように響き、プレッシャーが紘一を包む。
「落ち着け……計画的に動け。ここで焦ったら負けや」
紘一は深呼吸し、モンスターの行動パターンを分析。社畜時代、上司の無理難題に対応するため、常に複数の作業を時間内に終わらせてきた経験が役立つ。攻撃、回避、タイミングの調整――全てがシンクロし、体が自然に反応した。
巨大モンスターの攻撃をかわすたび、紘一は冷静に反撃。書類の束を跳ね返すように武器を使い、敵の動きを封じる。攻撃のタイミングを外さず、短時間で集中して処理する。時間管理と戦闘の両立が、ここで真価を発揮する瞬間だった。
「よし……このリズムを崩すな」
残業モンスターが最後の猛攻を仕掛ける。しかし紘一は、あらかじめ計算した脱出経路と攻撃パターンに従い、回避と反撃を繰り返す。モンスターが倒れ、静寂が戻った瞬間、ダンジョン内の時計が全て正常に戻った。時間制限も解除され、紘一は深く息を吐く。
「ふう……やっぱり、時間管理ってのは大事やな」
冷静さを取り戻した紘一は、戦利品と経験値を確認しながら笑みを浮かべる。会社にいた頃は、この時間管理も上司の理不尽な要求に追われて消耗していただけだった。しかし今は、自分の力として自由に活かせる。
街に出ると、太陽が高く昇っていた。遠藤紘一は、ダンジョンを生き抜くための自信を深めた。残業モンスターとの戦いは、彼にとって単なる戦闘ではなく、会社で培ったスキルを最大限に活かす訓練だったのだ。
「よし、次はどのダンジョンに挑むか……自由やからこそ、楽しみやな」
胸に新たな期待を抱き、紘一は次なる冒険に足を踏み出した。時間と戦い、自由を駆使する探索者としての旅は、まだ始まったばかりだった。
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