おいしい、の向こう側
snowdrop
たまご
数年前、年に一度の健康診断で母の肝臓の数値が上がった。我が家はお酒を飲まないが、美味しいものが大好きだ。とくに母は舌が肥えていて、A5ランクの飛騨牛やうなぎ、牛肉入りのカレー、天ぷらやとんかつ、フグの白子、ウニやイクラ、蟹やエビ、海鮮丼などをよく食べていた。近所からは甘い果物や新鮮な野菜を山ほどいただき、三時のおやつにはコーヒーとカップケーキが定番だった。
食事の理想的なバランスは、炭水化物:たんぱく質:脂質=1:1:1/2といわれる。だが今の日本の食事は1:1:1になり、油の摂りすぎが目立つ。脂肪は油だけでつくわけではなく、糖質と一緒に摂ると体に蓄えられやすいらしい。パンや洋菓子、揚げ物など、美味しいものほど食べ過ぎに注意が必要だ。
健康診断をきっかけに、我が家の食事は大きく変わった。動物性脂肪を控えるようにし、牛・豚・鶏の脂身や内臓、バター、チーズ、ヨーグルト、牛乳、深海魚など脂の多い魚、魚卵、白子、ウニ、カニ味噌などをやめた。卵は白身に問題はないが、メレンゲだけ買う機会もないため使わなくなった。卵を使うマヨネーズやパン、お菓子も避けた。もともと家では揚げ物を作らなかったが、惣菜の揚げ物も買わなくなった。
一年後には数値が下がり、今も無理のない範囲で続けている。
とはいえ、脂肪分ゼロのヨーグルトは食べるし、いただき物の揚げ物も口にする。肉も鶏肉中心に戻した。
いまは物価高騰の時代。政府が掲げた「デフレ脱却」は、皮肉にも物価上昇の達成を意味していた。米や野菜、魚、肉、卵、小麦、牛乳、苺まで高くなり、クリスマスケーキも小さく高価で手が伸びにくい。我が家も買い控えが増えた。
「卵なんて最後に食べたのはいつだったかしら」と母がつぶやく。そんな会話をしながら、親子で今川焼を頬張る。そういえばこれにも卵が入っていたと思い出すが、「適度なら問題ない」と飲み込んだ。食事を楽しみながら体を思う、そんな暮らしが今のわたしたちにちょうどいい。
おいしい、の向こう側 snowdrop @kasumin
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