第5話 私にとっての本当のハッピーエンドを選んだ
春の午後、柔らかい風が吹いていた。
私達はめでたく結婚する事になった。
「緊張してる?」
そう聞かれて、私は正直に頷いた。
昔の私ならこんな大切な日にすら
“自分は場違いじゃないか”
って考えていたと思う。
でも今は違う。
白いワンピースの裾を握る私の手を
桐生くんがそっと包んだ。
「大丈夫。
君はここにいていい」
その言葉が、胸の奥まで染みていく。
式のあと二人で歩いた帰り道。
ふと、彼が足を止めた。
「覚えてる?
君が教室の隅でノートを見てた日」
忘れるわけがない。
世界で一番孤独だった日。
「俺、あの時思ったんだ。
この人を絶対に独りにしたくないって」
彼は照れくさそうに笑いながら、
小さな箱を差し出した。
「守るとか救うとか、
そういうんじゃなくてさ」
箱の中には、指輪。
「一緒に生きたい
それだけ」
涙が溢れた。
でも、それはもう
怯えた涙じゃなかった。
「私ね、昔は思ってた。
幸せになる資格なんてないって」
震える声で続ける。
「でも今はちゃんと言える。
あなたと一緒に幸せになりたい」
彼は何も言わず私を抱きしめた。
強くでも優しく。
数年後。
小さな家のリビングで、
二人並んで朝ごはんを食べる。
「今日、仕事どうだった?」
「うん。
相談に来てた子が、少し笑った」
それだけで心が満たされた。
かつて教室の底にいた私が、
今は誰かの居場所を作っている。
ふと、優しい顔をして彼が言う。
「ほんとに変わったよね」
私は首を振った。
「違うよ。
ずっとこの私だった」
彼の隣で、
怯えなくなっただけ。
窓から差し込む光の中、
彼と目が合って自然に笑い合う。
もう、隠れなくていい。
もう、独りじゃない。
いじめられっ子だった私の物語は、
“愛された”だけで終わらない。
自分を愛せるようになった私と
それを隣で喜んでくれる人と
穏やかに続いていく未来。
ここが、
私の本当に幸せなハッピーエンドだと思う。
いじめられっ子の私と学園一カッコいい彼 踊るrascal @rascal-0411
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます