第3話 絶望

「ここから逃げるぞぉ!!」

 そう言うと同時に光がある出口へと走り出す。しかし、そんなカグとは裏腹に──鰹節は前へと走り出した。


「うぉおおお! まとめて俺が相手してやるぜ!」

「バカ野郎!? なにやって──」

 

 鰹節は前にいるゴブリンに突進、剣をゴブリンの腹に突きさした。

「ギィ」 

 奴の腹から血が流れると同時に、断末魔を上げた。

 次の瞬間、光の粒子となってゴブリンが消える。


「何だよ、案外いけんじゃねぇか」

「敵は1人じゃない、左右から来るぞ! 真鍋、右を頼む!」


 真鍋に指示をだし、俺はターンを切り出した。


「やば──」


 左右から狙われる鰹節を守るように、左はカグ、右は真鍋が間に入り、ゴブリンの攻撃を防ぐ。

 片手剣を両手で握り、頭の上でこん棒を受け止めるカグ。真鍋は盾で防いだ。

 ゴブリンが地面に着地したと同時、隙を突くように首を狙ったカグは、片手剣を振り抜きゴブリンの首を斬った。

 真鍋ももう片方の槍で突き、倒す。


「まだ来る──」


 そう鰹節が言うと、カグは一目散に2匹のゴブリンに突進。

「はぁぁああ!」

 声を荒げながらも、ゴブリンのこん棒を躱して、背後に回り、冷静に首を斬る。

 こうして2匹のゴブリンを倒した。


 もしかして、イケるか──?

 スピードは遅いから、冷静に対処すれば躱すことができるし、パワーも両手でしっかり受ければ問題ない。

 残り6匹ならキット……勝てる。


 そう希望を抱いた瞬間、誰かの悲痛な叫び声が聞こえた。


「待ってくれ──! 嫌だ!」


 その声の方を見てみると3匹のゴブリンに囲まれている鰹節がいた。声を上げたのは剣と盾を地面へと落としているからだろう。

 攻撃と防御を失い絶望で顔を歪ませ、滝汗をかいている。

 鰹節はゴブリンに命乞いをするも、その言葉は届くはずもない。


「グ─!」


 ゴブリンのこん棒が腹へヒットし、痛みからか地面に手をつく。そして追撃の一撃が頭にあたり、強烈な衝撃が加わると、鰹節は地面に倒れ込んだ。

 ゴブリンたちはそんな鰹節を囲むように、円を組み、一心不乱にこん棒を叩きつける。


 その状況を黙ってみていた真鍋は、足が震えて動けないでいる。そんな真鍋にも3匹のゴブリンが襲いかかった。


「逃げろぉおおお──!」

「で、でも鰹節氏が!」

「まずは自分の身を案じろ! アイツは俺が助ける──」


 そう言うと真鍋は奴らから振り切って出口へと走り出した。


 まだ助かる可能性はある! こん棒で叩かれるのは拳で殴られるのと同程度。今はステータスで防御力も上がっているはずだ! 頼む耐えてくれ!


「ゴブリンども、こっちだ!」


 3匹のゴブリンを剥がすように、声をあげるカグ。すると思惑通りにこちらへ注意が向いた。


「ケケケ──」


 奴らは不敵に笑っている。

 

「そんなにおかしいかよ。テメェら!」

「待ってくださいカグ殿! 出口にも3匹のゴブリンがいて塞がれてます!」


 奴らを斬ろうとした瞬間、真鍋からの凶報。

 その悪い知らせに、思わず舌打ちがこぼれる。


 チッ、嘘だろ──もう3匹いたのか。


 カグが状況を理解した時、襲いかかってきた3匹のゴブリンと出口にいる3匹のゴブリンに前後を挟まれた真鍋。


 ヤバい、真鍋が挟まれてる! クソ……頼む。鰹節を助けるまで耐えてくれ……頼む。


 ゴブリンを剣で斬って斬って斬りまくる。時にはこん棒を躱して、隙を突いて首を真っ二つ。とてつもない運動量が、カグの息を荒げさせ、ドーパミンをドバドバと溢れ出させる。

 この時、カグは口角をあげ笑っていた。

 死と隣り合わせのこの状況を楽しいとさえ感じていた。

 


 忘れていた──この高揚感を。気分が極限まで高まり強くなっていく、この感情を。

 俺は生粋のゲーマーだったんだ。

 

 小学生の頃、毎日狂ったようにゲームをやっていた。学校終わりに帰ってすぐゲーム、好きだったのは勝ち負けとギリギリの勝負ができるFPS。

 時には、親から隠れて学校にいかずゲームをする日だってあった。

 反射神経とエイムを鍛える為に練習場に籠った毎日は作業だったが、不思議と嫌じゃ無かった。

 とにかく戦いを好み、勝敗にこだわった。

 

 でも親に、学校を休んでまでゲームをしている事がバレた時、こっぴどく怒られゲームを一切禁止にされた。

 そこから3年間、中学時代は一切ゲームをせず、いつしかこの感情を忘れていた。

 でも、思い出した──この素晴らしい感情を!


 

 気づいた時には、ゴブリンは一匹たりとも居なくなっていた。

 辺りを見渡すと、疲弊したのか尻もちをついている真鍋と頭から血が出て倒れている鰹節の姿。

 そしてカグ自身には、剣と服、そして手と顔には、ゴブリンの返り血がついていた。

 そのとき、俺は理解する。

「終わった──」

 この絶望的な状況から解放されたんだと。しかし、まだ問題は残っている。鰹節の安否を確認しなければならない。

 疲弊しているが、まだ自身が動ける事を確認して剣を鞘に収める。


 呼吸を整え、歩み寄ろうとした──瞬間。


「ケケケ──」


 聞き覚えのある嫌な声が、カグの耳を突き抜けた。


「嘘だろ……」


 カグは冗談であってくれと願いながらゆっくりと後ろを向いた。

 だがそれは間違い無く、奴だった。

 全部倒したと思い込んでいたカグは、再び力を入れようとするも、力が入らない。

 剣に手を伸ばそうとしても、握れない。 


 ヤバい……これ、ひょっとして、死ぬ?


 嫌な妄想が、頭の中を支配する。だが冷静さを取り戻し状況を考える。


 いや待て敵は一体のみ、力は入らないけど一体だけならどうにかして倒せないか?

 

「ギャァァァ!」


 切り裂くような叫び声、その主は真鍋だ。

 必死に考えるカグを嘲笑うように、また複数のゴブリンが現れた。一瞬にして希望は崩れ、絶望へ変わる。


「まっ……待ってくれ──辞めろ。真鍋後ろ!」


 思考が停止して、伝えるのが遅れた。真鍋の背後でゴブリンがこん棒を振り上げている。

 そして、真鍋の頭へ直撃してしまった。


 ぁ──あああああ!


 ゴブリンたちが、鰹節と同じように真鍋を囲み、こん棒を思いっきり叩きつけている。


 助けないと! でも目の前のコイツが邪魔だ!


「キィー!」


 目の前のゴブリンが、カグめがけ突っ込んでくる。震える足を抑え、奴がこん棒を振るタイミングを見る。

 そしてギリギリで右にジャンプし、それを回避した。それでもまだ終わってはいない。

 転がりながらも、立ち上がるが──依然として劣勢の状況。

 手に力が入らず、剣が握れない。それに今この瞬間も真鍋は、ゴブリンに痛めつけられている。

 助けたいのに、助けられない無力な自分に腹が立つ。


 諦めて──俺1人で逃げるか? いや……そりゃあ駄目だろ。人として。でも、こんな状況なんだから、仕方無いだろ。なぁ? 

 まだ、死にたくない。死にたくない! 足は動く──ならこの脚力を利用する! 


 決意を固めたカグは、ゴブリンへと走り出す。今日一番の叫び声をあげ、ゴブリンへスライディング。奴の足へとヒットし、転ばせる事に成功した。


 合戦では──首を踏み抜くもの!


 転んだ奴の首元めがけて、足を落とした。強烈なかかと落としは、奴の延髄を踏み抜き絶命させる。

 今度は真鍋の方へいき、ゴブリンを同じように転ばせ延髄を踏み抜こうとする。だが、敵は複数。一匹転ばせた所で、抵抗虚しく、奴らのこん棒が背中へ直撃してしまった。


 やっぱり無理か……ごめん真鍋、鰹節。


 倒れゆくカグは、親友2人に謝るも、背中をやられた衝撃で声が出せない。

 

 俺がダンジョンへ行こうと言い出したばっかりに……2人をこんな目に合わせてしまって、本当にごめん。


 カグへ、こん棒が振られる。もう動けないカグは見てる事しか出来ない。絶望と後悔の中、謝り、静かに目を閉じ運命を受け入れた。


 その──瞬間だった。


 銀閃が空気とゴブリンを切り裂く。たった一瞬の出来事、見えない斬撃がすべてのゴブリンを粉微塵にきり裂いたのだ。

 

「よく頑張ったね。もう大丈夫」


 カグを颯爽と救った銀閃とその声は、とても綺麗で美しい。

 白銀の髪をした美少女が、細身の剣『レイピア』を持ち悠然した態度で立っている。


 良かった……誰かが助けに来てくれた。


 その強さに安心、そしてこの状況が終わった事に安堵したカグは、その場で眠ってしまう。

 

「疲れちゃったのね、いいわ。ゆっくり眠りなさい──」


 優しく柔らかい声を最後に、カグの意識はそこで途絶えた。 

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