勇者のはずなのに、救わない――ぜんぶを呑み込む「たまご」の物語

短いのに、読後の余韻がずっと喉の奥に残る一編でした。
「勇者」と呼ばれた小さな語り手が、期待される役割を引き受けるのではなく、恐怖も大切なものも卵に詰めて黙り込む。その選択が、悲しいほど筋が通っていて胸が痛いです。

卵はストレージであり、避難所であり、祈りにも呪いにも見える。奪われないための所有権の宣言が、同時に世界との接続を断つ宣言になっていて、救済の物語を反転させています。
「なにもすくわない」という言葉が残酷なのに、幼い一人称の柔らかさがそれを言い訳ではなく生存の技術に変えていて、そこがいちばん怖く、いちばん優しい。

赤い空の美しさと、燃える将軍の恐怖が同じ視界にあるのも強烈でした。
孵る日まで詰め続ける――その未来が希望か破滅か、読者に委ねた終わり方も見事です。