曜日男子七村くん【2000文字】

有梨束

七村くん、君って──。

同じクラスの七村くんは、たぶん、ちょっとだけ他の人とは違う。

 

それに気づいたのは、席替えで七村くんの斜め後ろの席になってからだ。

七村くんはどんな人かとみんなに訊いたら、穏やかでマイペースだと言うだろう。

でも、それだけじゃない。

七村くんは時々変な言動をする。

国語の授業中に真剣に教科書を読んでいると思ったら、それが数学の教科書だったり。

朝読書に『句読点、記号・符号活用辞典。』という見たこともない辞書を読んでいたり。

別の日には環境委員じゃないのに、校庭の花壇を端から端まで全部水やりしていたり。

定年間近の女の先生に「今日も綺麗ですね」と爽やかさを炸裂させたかと思うと、体育のバスケでそれはそれは過激な野次をを飛ばしていたり。

上手く言えないけど、どれも、『七村くんっぽくない』言動なんだ。

じゃあ、七村くんは本当はどんな人なんだろう?

いつからか七村くんを観察することが、私の日課となった。

 

七村くんを斜め後ろから見ていくうちに、何か法則性があるんじゃないかと思えてきた。

だから、観察手帳をつけ始めた。

…我ながら、ちょっとキモい。

でも、変という意味でのキモさなら七村くんも同じな気がする、と後付けの理由を七村くんのせいにして、私は出来るだけ毎日メモを取った。

3ヶ月続けた。

そしたら、とある共通点みたいなものが見えた。

 

それは、曜日ごとにちょっとだけ『性格』が違うってこと。

 

…意味わかんないと思う、私も意味わかんない。

でも、その日だけを見るんじゃなくて、全体を見るとそう感じたんだ。

それで曜日ごとにどんな七村くんだったか、メモを見ながら書き出した。

 

 月曜日 穏やかでゆっくり。(…本当の七村くんに近い?)

 火曜日 声が大きい。野次とか文句とかは火曜日だけ。

 水曜日 行動が変。授業中に違う教科の教科書を読んでいることが多い。

 木曜日 リーダーシップがあって、おおらか。あと給食は絶対おかわりする。

 金曜日 女子にやたら優しい。喋り方も優しい。告白多数も大体ここ。

 土曜日 眉間に皺が寄りがち。怖い顔していることが多い

 日曜日 ?

 

土曜日は塾が同じで見かける程度だから、勉強が嫌なだけなのかも。

それにしたって、ここまで曜日ごとに分かれているってどういうことなんだろう…?

毎日違う性格を演じているとか?

曜日ごとに何かにチャレンジしている、とか?

実は、七つ子でそれぞれ曜日を担当しているとか…!?

…いや、ないか。

今日の七村くんも、眉間に皺が寄ってるのかな。

火曜と土曜以外は、もっとやわらかくて、笑ってることが多いのにな。

塾終わりにロビーのソファーでぼんやりと考え出す。

(…日曜日の七村くんは、他とはまた違うのかな)

曜日ごとに性格が違う七村くん。

もし本当にそうなんだとしたら、休みで会うことのない日曜日はどんななんだろう。

日曜日だけの、七村くん。

「…七村くん、ほんとはどんな人なんだろう?」

「呼んだ?」

「へ」

硬い声がしたかと思うと、七村くん本人がこっちを見ていた。

「七村くん!?あ、えっと、今のは違くて…!」

「僕に何か用事?」

「いや、そのっ」

案の定、声と同じく硬い表情の七村くんはちょっとだけ冷たかった。

他の曜日だったらそっけなくなかったのかな。

でも、今日は土曜日だから──。

急に泣きそうになって、気づいたらでまかせで喋っていた。

「あっ、そう!明日!日曜日って、何かしてる!?」

「日曜日は観たい映画があるけど」

「へ、へえー!?そうなんだ!」

「一緒に行く?」

「え。………行ってもいいの?」

「うん。駅前集合でいい?」

「う、うんっ」

「じゃあ、また明日」

態度が変わらないまま帰っていく七村くんの背中を見送った。

 

今、私の目の前には、クレープに大層ご満悦そうな七村くんがいる。

七村くんは昨日とは打って変わって、今日は集合の時からニコニコだった。

約束の映画も「面白かった!」と満面の笑みだったし、今は嬉しそうにクレープを頬張っている。

リスみたい、可愛い…。

「七村くんってさ」

「うん」

「…めちゃくちゃ顔が似ているお兄さんとかいる?」

「ううん」

口の横にクリームをつけた七村くんは、不思議しそうにしながら首を振った。

「じゃ、じゃあさ。……七村くんって、7人いたりする…?」

私の言葉に、七村くんの目がゆっくりと私の目と合っていく。

「すごいね」

「…何が?」

「そんなこと言ってくれたの、錦さんがはじめて」

ギラリとした瞳で、七村くんは笑った。

「でも7人じゃないよ、全部僕だよ」

「それって…」

「ふふ、これ以上は内緒」

七村くんは、微笑んだ。

私は、何も言えなかった。

 

朝の教室で、いつもと同じように、自分の席で七村くんが来る気配を待つ。

あれ以上は教えてもらえないまま、月曜日になった。

「おはよう、錦さん」

七村くんは登校してくるなり、私に声をかけた。

いつもと違う行動の、いつもと同じ穏やかな七村くんで。

そして、七村くんは私にだけ見えるように人差し指を唇に当てた。

「今日は『月曜日の僕』だよ」

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

曜日男子七村くん【2000文字】 有梨束 @arinashi00000

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ