里芋の味

白川津 中々

◾️

 クリスマス、貧乏だったうちにサンタは来なかった。


 豪華な食事もケーキもなく、前日に作られた煮付けが食卓にあがり、口数少なく食べる。いつもなら流れているテレビが消されていたのは、母親もきっと惨めな思いをしていたからだろう。言葉少なに米をよそう母に文句をつけるわけにもいかない。子供の頃、俺にとってのクリスマスは里芋の煮付けを食べるばかりの日でしかなかった。

 中学を卒業するとすぐに働くようになった。いつの間にか結婚して子供ができて、家族でクリスマスを過ごすようになった。裕福ではないものの多少の蓄えがあって、ターキーもケーキもプレゼントも用意できる。マライアキャリーやワムが流れ、モミの木の電飾が光っていても哀れな気持ちにならない家庭。それは俺が望んでいたクリスマスであり幸せの形だったが、どうしても過去を思い返し、我が子に憎悪の目を向けてしまうのだ。


「幸せか? 人並みにクリスマスを過ごせて」


 そんな言葉を子供に投げそうになる。肉を貪り、ケーキをねだる自分の子供に!


「サンタさんくるかなぁ」


 無邪気にはしゃぐ子供に、俺は精一杯の笑顔を作った。きっと、来年その次の年も、もこうなるのだろう。


 幸せなクリスマス。黒い炎ばかりが心に灯る。

 ターキーもケーキも、里芋の味がする。

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