エラーコード:アテレス・ロゴス
焼きそばにき
第1話 燃え落ちる約束と、ハッピーエンド
……暑い。苦しい。全身が溶けて流れ出すみたいに、汗が止まらなかった。焼けこげた木の匂いが鼻を刺し、思わず嗚咽が漏れる。嫌な想像が止まらない。だが——この燃え盛る建物の中では、どれも現実になり得た。
そんな中小脇に抱えていたのは、12歳の誕生日に父から貰った、なんの変哲もないオルゴールだった。音は少しズレていて高価ではないけれど、父が作ってくれた唯一の宝物だ。なのに俺は、その宝物を逃げる途中に落としてしまって、拾いに戻った結果がこの有様だ。
出口はわからない。それに、身体はちっとも言うことを聞かない。嫌な妄想が膨らんでいく。必死に抑えようにも、心は暴れる。うずくまった、その瞬間だった。天井がガラガラと音を立てて、俺めがけて落ちてきた。ああ、もうダメだ。
——その時だった。横から誰かが飛び込んできてそのまま体を抱き上げた。視界がぐるりと回った。間一髪。目の前まで迫ってきていた天井が地面と叩きつけられ——砕け散った。その光景にただ茫然としていると、声が飛び込んできた。
「おい、大丈夫か?タツキ……タツキ!」
抱えられたままその声を聞いて、ようやく自分は助けられたんだと気付いた。
「……お父さん?」
顔を上げると、そこには間違いなく大好きな父がいた。
「……お父さん、どうして戻ってきたの?」
思わず聞いていた。それを聞いた父はニカっと笑って答えた。
「困ってる奴がいたら放っておけるかよ。ましてお前だぞ?怪我、ないか?」
父がほっと息を漏らして、俺は必死に首を横に振った。そんな俺を見て、父はニカッと笑った。
「もう大丈夫だ、安心しろ。あとはまっすぐ行ったらすぐ出口だ。」
そういうと父は、出口へ向かって真っ直ぐ走り出した。汗でびっしょりのままだったが、父の腕は不思議と温かかった。ああ、やっぱり父はすごい。俺一人では到底できないことを、簡単にやってのける。そんな父に、俺は憧れを抱いた。
光が差し込む隙間を見つけ、手を伸ばせば届きそうだった。そんな時だった。父の手が離れ、俺は地面に投げ出された。さっきまで感じていた父さんの体温が、ふっと消えた。慌てて辺りを見回すと、床にいつの間にか大きな穴が空いている。そしてその穴の奥から、父の声が聞こえた。
「タツキ、聞こえるか!?すぐそっちに行けそうにない、そのまま出口に向かってくれ!」 その言葉に慌てて俺は言葉を返した。
「そんな……!じゃあお父さんはどうするの!? 今、引っ張り上げるから——!」
穴に駆け寄ろうとした瞬間、父の声が鋭く響いた。
「やめろ!」
短い沈黙のあと、父はいつもの調子の声に戻って言った。
「こっちに来るな。俺なら大丈夫だ。すぐに合流する。父さんが嘘ついたことなんて、今まで一度でもあったか?」
息が詰まり、返事ができない。そんな俺に、父は続けた。
「だからタツキ、そのまま、出口まで走るんだ。お前が取り残されて怪我でもしたら……“ハッピーエンド”にならないだろ?」
涙が込み上げたけど、必死にこらえた。父さんの言葉を信じて——踵を返し、その光に向かって走り出した。胸が締め付けられる。それでも、父の言葉が背中を押した。そして建物から脱出したその時、建物全体が轟音を立てて崩れ落ち始めた。瓦礫が周囲を押し流すように落ち、熱風と埃が視界を覆ったその瞬間、
「いいか、タツキ!誰の犠牲も出すな……!“ハッピーエンド”は、お前が掴め!」
その言葉を最後に——建物は完全に崩れ落ちた。
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