#7

そのまま、夜の公園へ向かった。


ワトソンたちを集め、定例の猫会議を開く。


「……ということなんだ」

と、この骨組みを伝える。


「そこで、だ。優秀なみんなの知恵を貸してほしい。

どうしたら、真叶の濡れ衣を晴らせるのか」


みんな、頭を悩ます。


「猫又様が一件一件、電話をする」

「猫又様が、律の両親に『お宅のお子さん、いじめてますよー』と伝える」

「猫又様が、律の枕元に妖力を解き放った状態で立つ」


などと、猫又の力ありきの提案しか出てこない。


「そういえば、宝くじ売り場でよく

『この売り場から高額当選者が出ました』

って書いてあるのを見かけますけど、

店に、そういうのを貼るっていうのはどうですか?」


と、ワトソン4号が意見を出した。


「! それだー!」


店から盗難届が出ているわけじゃない。

でも、子供たちはそんなことまで考えない。

この店でレアカードが出た、という事実が広まれば――

真叶が買った、という証明になる!


佐久田家との日常は戻った。


しかし、家族が寝静まってからが勝負だ。


最後の一人、真叶パパが寝るために2階へ上がるのを見届けると、すぐにPCに向かう。

真叶パパの仕事はデザイン関係らしく、WindowsではなくMacだ。普段は家でPCを使うことはない。

真叶パパの思考を推測し、パスワードを解除する。

(真叶パパが単純で助かった…)


「Windowsなら使ったことあるんだけどなぁ…」

少し勝手の違うキーボードに苦戦しつつも、イラストレーターの操作をYallah!で調べながら、ポスター作りに着手する。


デザイン関係とあって、ペンタブレットもセットされている。

これが作業スピードを格段に上げてくれた。


センスの塊である吾輩は、細部の色にも強いこだわりを見せる。


「もう少し、赤は黒寄りで……

って、

あー、行き過ぎた。これじゃあ、ほとんど黒じゃないか。


この字のフォントは……丸すぎると子供っぽいから、と。

で、大きさは……

えっ、小っさ。

小さすぎて、虫眼鏡でもないと見えないじゃないか。」


(よし! できた。これで完璧だ。)


画面の中には、

「このお店から レアカードが出ました!」

という文字。

赤ベースに、黒く、太く、大きな字で、『レアカード』の部分が強調されている。


これをお店に貼れば……。


だが、店員に見つかってはいけない。

見つかれば、イタズラだと思われ、真叶の評判が余計に悪くなるに違いない。


タイミングは友達が来る瞬間だ。

サッと貼って、そっと去る。

貼りっぱなしは論外。見つかれば、吾輩の計画は水の泡である。


プリンターは音が出てしまう。

明日、誰もいない間に印刷しよう。


そう言ってヤマト専用のふわふわベッドに丸まって眠りについた。


翌日、ワトソンズに召集をかけた。

無事にプリントアウトしたポスターを店と店の間に隠し、律の家に遊びに来ていた子供たちが通り過ぎるのを待つ。

大事なのは律に見せないことだ。律も一緒にいたら、真叶のことじゃないと話を変えられてしまうかもしれない。そこは祈るしかなかった。


「来ました。律はいません。」

少し先を見張っていた猫が知らせに来る。


「よし、みんな行くよ!」

と声をかけた合図で、それぞれが分担場所に散る。

吾輩は姿を消し、本来の姿に戻る。近くにいた猫たちは、力の影響で毛が逆立っている。


「今だ!」


吾輩は二本の尻尾でポスターの上端を支える。

下の両端を二匹のワトソンたちが頭で留めていた。

注目してもらうために、「ニャー、ニャー」と声を出す。


ナイス タイミング。


急に賑やかになったその空間に、子供たちは顔を向ける。


「あっ、この店でレアカード出たって書いてあるよ。」

「ほんとだ、真叶のカードじゃない?」

「え、盗んだんじゃなくて?

そういえば、このお店でカードが盗まれたって話、聞いたことないよな。」

「俺もない。ってことは、真叶の言ってることは本当のことなのか?」


そんな子供たちの騒ぎを聞きつけ、店員が顔を出す。


「退散!」


吾輩は風を起こし、あたかも強風でポスターが吹き飛んだように見せ、痕跡は残さない。


子供たちが店員に質問する。

「あのー、このお店でレアカードが盗まれたことってありますか?」


「それはないよ。高額なものは鍵のかかったところにあるからね。

もし盗まれたら防犯カメラもチェックするし、今のところ盗られたものはないよ。」


「やっぱり、真叶の言ってたことは本当なんだ。」

「それじゃ、俺たち、真叶に酷いことしちゃってたじゃん。」

「明日謝ろうぜ。それで、そのレアカード見せてもらおうよ。」


小さくなっていく会話が、この作戦が成功したことを告げていた。

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