#6

太陽が一番高いところにある頃、真叶ママが真叶を連れて出かけて行った。

おばあちゃんちに泊まりで行くからと、散々吾輩を撫でまわし、名残惜しそうに

「ひとりぼっちにさせてごめんね」

と言いながら。


(いってらっしゃーい。)


これで自由に動ける。


いそいそと、いじめっ子の元に向かう。

ワトソン3号の情報によれば、その子の名前は「律(りつ)」だそうだ。


家に着くと、律は外に出て友達数人とスマホゲームをしている。


「ニャン」と一声鳴いて近づく。


ガキンチョの集団は怖い。だが、この町のボスである吾輩は、みんなを守るヒーローだ。

勇敢に、果敢に立ち向かわなければならない。


心とは裏腹に、愛嬌を振りまき癒しを与える存在にならなければ、話は聞き出せまい。


「ニャー」

作戦は大成功。

代わる代わるベルベットの滑らかな毛を撫でた子供たちは、やがて飽きてゲームの世界に戻っていった。


「そういえば真叶さぁ、あいつまだ店にカード返しに行ってないらしいよ」

「あー、自分で買ったって言い張ってるもんな」

「あれだろ、店の鍵のかかった売り場にあったレアカードを隙を見て盗んだんだろ? 見たやつがいるって言ってたもんな」

「あいつ、やばいよな。将来犯罪者でテレビに出たりしてー」

「そうしたら俺たちインタビュー受けちゃうかもよ。顔をぼやかされてさ、声も変にされてさ」

「4年生の時、レアカード盗んでました。って言ってやろうぜ」


モザイクのつもりなのか、手を目のところに持っていき指をピラピラ動かし、声を高くしゃべっている。


「あははははっ」

みんなで真叶の噂をネタに、声を上げて笑っている。


残酷だな、子供って。

噂を本当のことのように話す。それが嘘でも、真実のようになってしまう。


そんな中、律は一言も発せず、友達の様子を見守っているようだった。

満足そうに、笑みをたたえて…。


「〜 〜 〜♩」

子供たちに帰る時間だと知らせる音楽が、町に響く。


律と遊んでいた子供たちは

「また月曜日なー。」

と言って、それぞれの方向へ散っていった。


ぽつんと、律と吾輩だけが取り残される。

きっと、この静寂が訪れる瞬間が、律にとって一番辛いのだろう。


律はまた、吾輩の背中を撫で始める。


「噂を流したのは僕なんだよ。あいつ、SNSで自慢してくるからさ。

だって、あいつには笑ったり話したりする家族がいるじゃないか。

それなのに、レアカードまで引き当てるなんて、ズルすぎるだろ。

そう思わないか、クロ……」


律は勝手に、吾輩のことをクロと呼ぶ。


(なるほど、そういうことか……。)


いじめの構造は、意外と単純だ。

ほとんどは、この「妬み」から生まれる。


一見、強い者が弱い者を暇つぶしにいじめ始めると、人間たちは考えるだろう。

だが、根はそこではない。


人間は、自分にないものに憧れる、欲深い動物だ。

それは愛情であったり、才能であったり、力であったり、容姿であったりする。


いじめるやつは、羨ましいのだ。

自分にはないものが眩しく、勝てないと悟ったとき、

味方を集め、潰しにかかる。


「さて、どうするかなぁ……」


原因と事の成り立ちは、わかった。

正直、人間がどうなろうと吾輩には関係ない。

ただ、このままにしておけば、また猫たちに被害が出るかもしれない。

それは困る。解決しなければ。


となると、最優先すべきは――

真叶が“自分で買った”と証明すること、だな。

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