第3話 初めての危機
ある日の昼下がり、冒険者ギルドに新たな依頼が掲示された。標題は「森の中の魔獣討伐」。内容を読むと、近隣の村で魔獣による被害が相次いでおり、被害拡大を防ぐため、熟練者でも危険な任務だという。
ランスは掲示板をじっと見つめた。Eランクの自分が挑むには危険すぎる任務だが、仲間と共に挑むことで学べることも多いはずだった。カイルとリーナに相談すると、二人とも頷き、三人で挑むことに決めた。
森の入り口で三人は装備を点検する。ランスの槍はまだ頼りないが、訓練で磨いた動きと判断力が武器となる。カイルの短剣と軽装の動きは俊敏で、リーナの魔法は戦術的に使用される。
「気をつけろ。ここは魔獣の縄張りだ。小手先の力では通用しない」
リーナの言葉に、ランスは深く頷き、心を引き締めた。
森に足を踏み入れると、木々の隙間からかすかな唸り声が聞こえ、鳥の群れが一斉に飛び立った。空気が重く、張り詰める。ランスの手に汗が滲むが、心は冷静さを保った。
突然、背後で大きな枝が折れる音。振り返る間もなく、巨大な狼のような魔獣が三人に飛びかかる。体は黒く光り、牙と爪は鋭い。ランスは咄嗟に槍を構え、盾代わりに丸太を押し出して防ぐ。
「うわっ!」
魔獣の爪が盾を破り、ランスは吹き飛ばされて地面に叩きつけられる。痛みが全身を走る。だが、立ち上がる間もなく、魔獣はカイルに襲いかかろうとする。
ランスは瞬時に判断した。自分が囮になれば、カイルが反撃の機会を得られる。咄嗟に槍を振り、魔獣の注意を引きつける。魔獣は唸り、ランスを追いかけて森の奥へ。
「ランス、無茶はダメよ!」
リーナの声が響くが、ランスは振り返らずに森の地形を利用して距離を稼ぐ。倒木や茂みを駆使し、魔獣の動きを制限することで、仲間に時間を作った。
カイルとリーナはその間に連携攻撃を仕掛ける。カイルの短剣が魔獣の足元を斬り、リーナの魔法が上から一撃。魔獣は痛みと驚きで一瞬動きが鈍る。その隙にランスは槍を振り、胸元を貫いた。
しかし魔獣は強靭で、完全には倒せない。森の中での戦闘は泥まみれになり、傷も増え、息は乱れる。ランスは何度も転倒し、仲間に助けられながら、必死で戦い続けた。
戦闘の最中、ランスはふと自分の弱点に気づく。力はまだ足りない、魔法の攻撃も不足、素早い動きにも限界がある。しかし、それ以上に「判断力と冷静さ」が自分の最大の武器だと理解した。混乱の中でも、仲間を守り、魔獣の動きを読むこと。それがEランクの自分でもできることだと悟った。
激闘の末、三人は協力し、魔獣を討伐することに成功する。倒れた魔獣の前で、三人は疲れ切った体を支え合いながら立ち上がった。森の静寂が戻り、夕日が木漏れ日となって差し込む。
「危なかった…」カイルが息を切らせながら笑った。「でも、ランスのおかげで勝てたな!」
リーナも静かに頷く。「冷静に判断してくれたおかげ。無謀な突進じゃなく、状況を見極めて行動した。それが今回の勝因よ」
ランスは胸の中で何かが変わったのを感じた。単なる力ではなく、知恵と観察力、仲間との連携。それが、弱い自分でも勝利に導く力になるのだ。
帰路、ギルドに戻る三人は疲れ切っていたが、心は充実していた。ランスはギルドの掲示板を見上げながら、静かに誓う。
「俺は…もっと強くなる。仲間を守り、困っている人を助けられる冒険者になる」
その日、ギルド内でランスの存在は少しずつ知られるようになった。Eランクの少年が、中規模の魔獣討伐で冷静な判断と仲間との連携で成果を出したのだ。まだ力は弱い。だが、努力と知恵で道は開ける――ランス自身がそれを証明したのだった。
森での危機、仲間との信頼、そして自分自身の覚悟。それらがランスを、平民の少年から冒険者として成長させる大きな一歩となった。
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