第4話 もう逃がさない

「んっ……!?」


晴香の身体がビクリと跳ねる。

だけど、俺は離さなかった。今まで飲み込んできた言葉の代わりに、熱を注ぎ込むように深く口づけをする。

数秒か、数分か。唇を離すと、晴香は顔を真っ赤にして、浅い息を繰り返していた。


「……謝らないからな」


俺は彼女の両脇に手をつき、逃げ場を塞ぐように上から見下ろす。

晴香の瞳が、熱っぽく俺を見つめ返している。


「晴香、嫌なら……今すぐ突き飛ばせ」

「大輝、ま、って……」

「もう十分待った。晴香のことずっと好きだったから。頼むから……早く突き飛ばしてくれ!」


一瞬、部屋の中がやけに静かになる。

エアコンの低い音と、重なった呼吸だけが耳についた。


晴香の指先が、俺の胸元で迷うように止まる。


突き飛ばされる、と覚悟した瞬間。

その手は俺の服をぎゅっと握りしめただけで、押す力は込められなかった。


「……やだ」

「え?」

「私が大輝のこと、突き飛ばすわけないでしょ?」


消え入りそうな声と共に、晴香の腕が俺の首にするりと回された。

その無防備で愛おしい仕草が、俺の中の最後の理性を焼き切った。


「いいんだな? お前が煽ったんだから責任取れよ」

「……うん」


再び重なった唇は、さっきとは比べ物にならないほど熱く、激しかった。

俺たちは雪の降る夜、十年の境界線を踏み越えた。

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