第2話 見えないライバル

クリスマスイブ当日、待ち合わせの駅。

寒空の下で待っていると、人混みの中でも一際ひときわ目を引く女性が歩いてくる。


「大輝! 待った?」


晴香だった。

雪のような純白のコートに、脚のラインをきれいに見せるロングブーツ。ハーフアップにした髪が、歩くたびに揺れる。

どう見ても――男を意識した装いだ。

それが俺のためじゃないと思うと、腹の奥がざわついた。


「お前、気合い入りすぎだろ。誰に見せるつもりだったんだよ」

「えっ? だ、大輝にだけど……」

「嘘つけ」


俺は不機嫌に吐き捨て、彼女の腕を引いた。

すれ違う男たちが晴香に向ける視線が、やけに鬱陶しい。

背中を隠すように、自分の方へ引き寄せる。

その拍子に、肩に掛けていた大きめのトートバッグが俺の体に当たった。


「……荷物、多くないか」

「そうかな? まあ、いろいろあるから」


曖昧に笑う。その言い方が、妙に引っかかる。

このあと誰かと別の予定があるのか……?

なんて、一瞬嫌な想像が頭をよぎったが、俺はそれを口にはしなかった。


晴香は、まだ俺に腕を引かれたままだ。


「つーか、お前、無防備すぎ」

「大輝、今日なんか怒ってる?」

「怒ってねーよ」



レストランは案の定、カップルだらけの高層階の店だった。


「で? 正直に言えよ。本当は誰と来るつもりだったんだ?」


俺が低い声で尋ねると、晴香はワイングラスを持ったまま視線を逸らした。


「……だから、いないってば!」

「嘘つくな。一人でこんな店予約するわけないだろ」

「もう、いいじゃんその話! 今は大輝といるんだから!」


晴香はムッとしたように唇を尖らせる。

その態度は、図星を突かれたようにしか見えなかった。

俺は目の前のワインを一気に煽った。そうかよ、俺には言えないような相手ってことか?

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