第2話
釘森風和は困惑していた。
つい先ほどまでは教室にいたはずだ。それなのに気づけば見知らぬ場所に立っていたのだから。
(ここ……どこ?)
薄暗いがとても広大な空間であり、周囲には幾つもの円柱が見える。そして自分が立っている床には奇妙な文様が描かれている陣が刻まれていた。
そして……。
「おいおい、何だよここ?」
「私たち、教室にいた……よね?」
「夢? 夢……じゃない?」
などとクラスメイトたちが口々に疑問を口にしている。
「――風!」
いまだ困惑している中、自分に声をかけてきた存在がいた。
「! 咲絵ちゃん!?」
クラスメイトで中学からの親友――
「大丈夫!? どこも怪我とかしてない?」
「う、うん、大丈夫だよ。咲絵ちゃんは?」
「あたしも大丈夫。でも……」
「ここ……どこなんだろうね?」
二人は寄り添いながらキョロキョロと周囲を見回す。
「分かんない。けど……どっかの宮殿とか、お城とかっぽい感じ?」
「そう……だね。広いし……でも何だか寂しいところ……」
荘厳な造りをしているが、薄暗いせいか寂寥感を覚えてしまう。
「でも何でいきなりこんな場所にいるのかしらね。相沢の奴は異世界召喚だとか騒いでるけど」
「異世界……」
風和たちと同じように他のクラスメイトたちも、いまだざわつきながら少しでも情報を集めようと観察している。そんな中、風和はあることに気づく。
(全員いる……よね? あれ……でもひーくんは? あの時、ひーくんも一緒にいたはず。でも…………いない?)
風和にとっては忘れることなどできない人物――七原日映。そんな彼が、突然自分の教室へ入ってきた時は驚いた。そう、〝あの時〟からまともに話したことはないが、それでも無視できるような、いいや、そんなことをしたくない男の子。
ここにいる顔ぶれは、教室にいたクラスメイトたちだが、同じように傍にいた彼の姿が見当たらない。
するとその時、柱に備え付けられていたランプらしきものに光が入る。次々と周囲を照らしていき、そしてランプが照らしたその先に皆の視線が向かう。
そこには玉座が設置されており、その上に一人の人物が腰かけていた。
(……誰?)
鎮座する人物は、明らかに日本人ではない風貌をしていた。
目の覚めるような青々とした髪に透き通るような白い肌。純白の衣を纏っており、か細い手には長い杖が握られている。まるで西洋の女神が描かれた絵から飛び出てきたかのような美麗な風貌に、誰もが言葉を失って魅入られていた。特に男子は顔を赤らめている者も多い。
「――――お待ちしておりましたわ、皆様」
そんな人物が微笑を浮かべながら口を開いた。声音もまた聞き心地の良い響きだ。
「困惑しているでしょうが、まずはわたくしの話を聞いて頂いてもよろしいでしょうか?」
その言葉に少し引っ掛かるものを感じた。仮にクラスメイトの相沢が言うように、これが異世界召喚であるなら、きっと待っていたと口にした彼女が原因だろう。
ならまずは身勝手に呼び出したことに謝罪が常識ではなかろうか。にもかかわらず、まずは自分の話を聞いて欲しいと言う。さらには微笑みまで浮かべて。
彼女の態度に引っ掛かりを覚えたのは風和だけではなく、傍にいる咲絵もらしい。その表情に嫌悪感が見える。
「ああ、まさしくあなたは異世界の女神様! もしかしてあなたが僕たちを召喚なさったのでしょうか!」
誰もが口を閉ざしていた中、堰を切ったかのように興奮を露わにしたのは、先ほどから話題に上がっていた相沢将史だ。
「ええ、偽りなく、わたくしが皆様をこの世界へ召喚させて頂きましたわ」
「やはりっ! ああ! サイッコーだ! 本当に異世界があったなんて! 女神様、ありがとうございますぅっ!」
心の底から喜びの声を上げる。確かにアニメオタクらしい相沢ではなくとも、異世界というファンタジーに憧れを抱くのは理解できる。風和だって、昨今ブームとなっている異世界ものの創作小説などを知らないわけではないし、そういう世界に興味がないわけではない。我を忘れるほどの感謝を述べる相沢ほどではないが。
けれど実際にこうやって見知らぬ場所に連れてこられると不安でしかない。まだ周りには頼りになる咲絵やクラスメイトたちがいるから良いが、もし一人だったらと考えるとゾッとする。
相沢の喜びように、他のクラスメイトたちは若干引いている様子だ。無理もない。
「女神様! 是非、あなた様のお名前をお教えくださいませ!」
「ええ、では自己紹介をさせて頂きますわね」
ようやくこの現状を生み出した張本人の名前を聞くことができる。全員が黙して耳を澄ませる。
「わたくしの名前は――ユーズレイハ。そしてココは、わたくしのためだけに存在する――【
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