第3話


 帰宅後、ベッドにうつ伏せで寝転ぶと、アリサのインスタグラムのページを開いた。そのまま画面をスクロールし、過去の投稿を眺めた。こんな形であの子と遭遇するなんて思ってもみなかった。小学生の頃に比べると酷く垢抜けている。それらの投稿を眺めていると、どうしても私自身のアカウントと比べてしまう。引っ越しを機に、私はみんなとは違う中学校へ進んだ。一新された環境で、私は自身を変えようと必死だった。いつもおどおどしていた自分から、もっと理想へ近付けるために。そこから自身のインスタグラムを使って、煌びやかな姿を投稿し続けた。


 そんな私と同じ、内気なイメージが強かったアリサの変わりように、私は驚きを隠せなかった。


 あの子の投稿は芸術家としての作品がほとんどを占めていて、奇妙なアート作品がいくつも並んでいた。自分にはアートの知識もないし、興味もない。誰かに「ここに映るものは何か?」と問われれば、きっとゴミだと断言する。作品に添えられた本文を読むと、そこにはアート作品の題名が記載されていて、簡単な説明文も添えられていた。


 例えば、多くのスマートフォンがびっしりと座面などに貼り付けられている木製の椅子。どのスマートフォンの画面にもヒビが入っている。それらを接着剤で固めているのか、背もたれや足部分にもスマートフォンがびっしりと隙間なく並んでいた。その作品の題名は『快楽依存への椅子』だった。説明書きには『人々は様々な情報を求め、いつ壊れてもおかしくないこの不安定な椅子へ喜んで座る。だがこの椅子に一度座ればどうなるのか、多くの人間達は知らない。疑うことを忘れ、多数派が織り成す常識にすべてが飲み込まれる』と記載されていた。現代アートというハッシュタグも付いていた。ふと、テレビでこのような不可思議なアート作品を創る芸術家の特集を見たことを思い出した。作品から壮大なメッセージを訴えるたぐいのものだった。アリサもその芸術家と同じような活動をしているのだろうか。アリサの投稿には、他にもびりびりに破られたAIアートがいくつも展示されている美術館を再現した空間や、配線が飛び出し、壊れたゲーム機が壁にずらっと貼り付けられた作品もあった。


 その作品の材料は明らかに不要品だった。それらをアートの一部にすることで、作品が出来上がっている。これがアリサのポリシーだとすれば、万華鏡作りの際にアリサが放った言葉は、何か特別な意味があったのかもしれない。今ならこのスマートフォンを介して、その答えを知ることが出来るかもしれない。けれど、五年ぶりの旧友に連絡する勇気はなかった。そんな部分は小学生の頃の私と何も変わっていない。迷った挙句、そっといいねのボタンを一度だけ押し、溜息をつくとスマートフォンをベッドの上へ投げ出した。私は本当に変われているのだろうか。アリサみたいに。外見は変われても、中身を変えることは困難だ。すると通知音が響いた。再び画面を確認すると、私は自身の目を疑った。


『久しぶり。あたし小学生の同級生だったんだけど、覚えてる?』


 アリサ本人からだった。その思いもよらない出来事に、返信する余裕さえなく、その画面を唖然と見つめていた。すると一分も経たないうちに着信音が鳴り響いた。


「ウソ、電話?」


 インスタグラムの通話機能から着信音が鳴り響き続けている。一時悩んだ挙句、恐る恐る画面をタップした。


「……もしもし?」

「えっと、あたしのこと、覚えてる?」

「ああ、うん。アリサちゃんだよね? 久しぶり」

「ははっ、ちゃん付けとかやめてよねー。呼び捨てでいいって。てか今さ、いいねしてくれたでしょ。投稿見たら真鈴だってすぐわかって連絡してみたんだ」

「えっ、そうなんだ。急に電話かけてくるからびっくりした」

「ごめんごめん。あたしメール打つの苦手でさー。電話したほうが速いなって。ねぇ、住所前と一緒?」


 ハキハキと早口で喋るアリサは、小学生時代とはやっぱり雰囲気が変わっていた。あの頃はもっとおどおどしく会話をする子だったはずだ。その変わりようが、私はただ純粋に羨ましいと思ってしまった。だけど私も負けないように声を張った。


「うん、隣の学区にずっと住んでるよ」

「じゃあさ、まだ六時だし、久々にちょっと会って話さない? 今から駅前のコンビニとかどう?」

「え、今から?」

「まだ明るいし、問題ないよね? あ、やっぱまずい?」

「ううん、大丈夫。今から行く」


 また後でね、と二人で言い合い、通話を切った。この急展開にいつの間にか心臓がドクドクと音を立てていた。旧友と久しぶりに会話しただけなのに、無様だ。すぐに制服を脱ぎ捨て、それなりに名の知られているブランドの服へ着替えた。ここへ引っ越しをしたせいで、小学校の同級生とは同じ中学校へ進まなかった。だから旧友がどんな風に変わっているのかは知らない。きっとアリサだけではなく、皆それなりに変わっているはずだ。けれど、自分だってこの五年間、動画やSNSで理想を研究し、努力してきた。ファッションやメイク、微笑み方まで。理想へ近付けた部分はたくさんある。だから昔よりも、今の自分のほうが好きだ。


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