カレーライス

ある夏の日の夕方に、ある用事を終え家の近くまで帰ってきたのだけれど、どうも小腹が空いたので例の喫茶店へ足を運んでみた。さすがに彼女はいないようだ。そう何度も偶然が重なっても怖い。よかったよかったなどと自分を慰めながらも、カレーを頼む。少しして運ばれてきたが、ピリッと辛くておいしい。ほのかに甘い福神漬けがよく合う。もうじき食べ終えようとしていたそのとき、コロンとドアベルが鳴り、制服姿の女子高生が入ってきた。ドリアの彼女だった。高校生だったのか、と軽い驚きを覚え、いやしかし妥当なのかもしれないなどと打ち消し、制服などという記号がなければ少女の年齢すらわからないのかと自分に失望し、いやいや女性の年齢を邪推するほうがおかしいのだとモゴモゴ考えていた。窓の外を見ると、夕立。雨宿りに来たようだ。水色の襟のセーラー服はこのあたりでは初めて見た。遠くの学校に通っているのかもしれない。ポツポツと雨のあとがのこる襟の上を彼女の茶髪が滑らかに流れ、汗なのか雨なのか前髪がぺたぺたしていて可愛らしかった。あんまりジロジロ見るものでもないさなあと、窓の外を見やるふりをした。あいにく傘を持ち合わせていないので、私ももう少しここに滞在せねばならないらしい。アメリカーノを注文した。運ばれてきた液体は、ピカピカと艶のある彼女のローファーとおんなじ色をしていた。

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