コンビーフサンド
何やら大きな事件が起きたと世間が騒いでいるので、どれ新聞でも覗いてみるかと喫茶店へ向かった。うちでは新聞をとっていないのである。どうせならと少し足を伸ばして、ドリアの女の子がいたところを目指してみた。果たして、彼女はいたのである。期待して向かった割に、いざ彼女を目にすると、何となしに驚きと、ささやかな喜びとを感じた。ちょうど何かを頼む時であったらしい。「コンビーフサンド、トマト抜きで」と聞こえてくるその声は、髪が明るい色であるために明朗な子なのだろうと思っていたのだが、案外と柔らかく優しげで大人っぽく、それでいて鈴のような可愛らしい響きがあった。この声が決定的で、私は今も彼女を忘れることができない。トマトを抜いてもらうという子供っぽいこだわりがまた、良い。「それから、アイスティ、ストレートで」と付け足すのも、大人っぽいようでいてブラックコーヒーを飲めないのだろうと窺わせる幼さに満ちていた。私はついそちらをじっと見つめてたらしい。注文を終えた彼女と目が合う。急いで逸らす。なんだかドギマギとしてしまい、店の名物レモンスカッシュを注文してみた。甘酸っぱい味がした。
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