Jの苦難 1
ある日の午後。Lの屋敷から、一通の招待状(という名の強制呼び出し)が届いた。
「面白いものを見せてあげるから、みんなで遊びにおいでよ!」
Wの屋敷の面々がLの広間に足を踏み入れると、そこには異様な光景が広がっていた。
「……あ、Rちゃん……」
部屋の中央。真っ赤な顔をして、今にも消え入りそうな声で呟いたのはJだった。
しかし、その姿はいつもの服ではない。レースが幾重にも重なり、胸元には大きなリボン、裾には贅沢なフリルが躍る、極めて可愛らしい――女の子用のドレスを着せられていた。
「見てよこれ! G姉さんと一緒に選んだんだ。Jって線が細いから、ドレスがすごく似合うでしょ?」
Lが自慢げにJの肩を抱く。Jは顔を両手で覆い、泣き出しそうな瞳で床を見つめていた。
「…………」
Rは無言のまま、三歩近づいた。
オッドアイの視線が、Jの頭の先から足の先までを冷徹に、かつ入念にスキャンしていく。
「……Rちゃん、お願い、何も言わないで……。L様たちが、どうしてもって……」
Jの懇願を無視して、Rはドレスのフリルを指先でツン、と突いた。
「……似合ってる」
「えっ……!?」
Rに悪気はない。彼女にとって「羞恥心」はミシェに捨てさせられた不要な感情だ。そのため、ドレスを着せられて絶望しているJを見ても、「可愛い」とか「可哀想」という感想より先に、「珍しい外観の個体」としての興味が勝っていた。
「わあ、Rちゃんもそう思う!? さすがだね。ねえ、せっかくだから二人で並んで写真撮ろうよ!」
Lがはしゃいでカメラを取り出す。
「お、おい、L! 悪ふざけが過ぎるぞ。Jの尊厳はどうなっているんだ。人間にだって雌雄くらいあるのは知っているだろう」
「えー、でも人間もペットの雌雄に関わらずリボンとかつけるでしょ」
Wが苦言を呈するが、Lはそれに対抗する。さらにその横でSがふーん、と顎に手をあてて何か考えている。
「恥ずかしいから撮影は本当にやめてください!!!」
Jの悲鳴が広間に響き渡る。
結局、その日の午後は、ドレス姿で泣きべそをかくJと、それを無感情に、けれど興味深く観察し続けるRという、地獄のようなティータイムが繰り広げられた。Lの姉であるグラはそんなJたちを見てニコニコと微笑んでいた。
帰り際、RはJの肩をぽんと叩いてこう言った。
「J。その格好なら、グラお姉さんに無理やり石を食べさせられても、吐いた時にドレスが汚れるからって、掃除を理由に逃げられるんじゃない?」
「そんな理由で着てたくないよぉ……!」
最後まで噛み合わない二人の会話を、夕暮れの空が虚しく照らしていた。
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