第2話 もう新しい家に?
「え〜、やっぱ幸せにはなれないのかぁ。実験だったとはいえ、君バツイチってやつだ。」
「せっかく君たちが言うから実験してあげたのに失礼な。まぁ、人間とはペットとしてなら生活できるよ。お互い対等だと思うからよくないんだ。」
Wの屋敷の居間には、非常に不穏な空気が漂っていた。
原因は、ひょっこりと遊びに来た悪魔の人外、L(エル)である。彼はソファにふんぞり返るSの隣で、おもちゃを見つけた子供のような目で一点を凝視していた。
その視線の先にいるのは、ガタガタと音を立てて震えながら紅茶を運ぼうとしているJだ。
「……ひっ、あ、の……お待たせ、いたしました……っ」
カチャカチャとカップが揺れ、数滴の紅茶がソーサーに溢れる。Jの顔は今にも泣き出しそうで、その細い指先は青ざめていた。
「へぇ……。それで、ねえS、あの子。君が元妻のところから奪ってきたっていう人間?」
Lが弾んだ声で尋ねる。彼の背後では、悪魔の尻尾が機嫌良さそうにパタパタと揺れていた。
「そう。オッドアイの方は俺のRだけど、その泣き虫は……まあ、おまけだね。Rが首根っこ掴んで離さなかったんだ。Wに世話を丸投げしてるけど、正直扱いに困ってる」
「ふーん……。いいね、すごくいい。あの怯え方、小刻みな震え、守ってあげたくなるね!」
その時、廊下から気怠げな足取りでRが現れた。
彼女はLの存在に気づいたが、特に挨拶することもなくJの持っていた紅茶を奪って無言でLに渡した。
「あ、Rちゃん……!」
「J、こぼしすぎ。Wに怒られるよ」
「だ、だって……あの、あの方がずっと僕を見てて……」
Rは無関心にLを眺めた。
「はは、Jのこと食べたいんじゃない?今のうちに逃げた方がいいよ、J」
「食べないよ! 失礼だなあ。僕はただ、可愛がりたいだけさ」
Lは軽やかな動きで立ち上がると、一瞬でJの背後に回り込み、その細い肩に手を置いた。
「うわああっ!?」
Jが短い悲鳴を上げて飛び上がる。Lは悪戯っぽく笑いながら、Jの頬を指で突いた。
「あはは! いい反応だね。ねえS、この子、僕に譲ってくれない? ちょうど僕の屋敷、姉さんと二人で退屈してたんだ。前にいた子は…いや、まぁ、とりあえずペットが一匹欲しかったんだよね」
Sは面倒くさそうに片目を開け、答えた。
「いいよ。Jは俺の目的じゃないし。Wも、世話をする人数が減れば少しは楽になるだろ」
勝手に進む譲渡話に、Jは絶望的な表情でWに助けを求めた。しかし、キッチンから戻ってきたWは、ボロボロのJと、嬉々としているL、そして無関心なSを見て、深く、深くため息をついた。
「……L。Jは人間だぞ。お前らの姉弟は加減というものを知らない。1番下はそうでもないが…死なせるなよ?」
「わかってるって! 練習するよ、力加減。壊さないように、慎重に、じっくり……ね?」
Lの目は全く笑っていなかった。むしろ、新しい玩具をどうやって分解して遊ぼうか考えている子供の純粋な残酷さがあった。
「Rちゃん……Rちゃん助けてぇ……!」
Jが泣きながらRの袖を掴む。しかし、Rは空になったカップをテーブルに置き、他人事のように言った。
「よかったじゃん、J。新しいお家だって。きっと退屈しないよ」
「そういう問題じゃないよぉ!!」
こうして、Jの所有権はあっさりとSからLへと移された。
数分後、Lに首根っこを掴まれるようにして連行されていくJの悲鳴が、Wの屋敷の廊下に虚しく響き渡った。
「……行ってしまったな」
Wが遠くなる悲鳴を聞きながら呟く。
「ま、死にそうになったらラフが治しに行くだろ」
Sは欠伸をしながら、当然のようにRを膝の上に乗せた。
「……S」
「嫌だ。お前は俺のだからね」
Rは面倒くさそうに、けれど抵抗することもなく、Sの腕の中で再び微睡み始めた。
去っていった友(J)の安否よりも、今の眠気の方が、彼女にとっては重要だった。
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