きみにおくる

香久山 ゆみ

きみにおくる

 ひとりぼっちだと泣くきみに、なにを贈ろうか。

 うつむくきみの瞳に、僕の姿は映らない。

 耳をふさぐきみに、僕の声は届かない。

 うたぐり深いきみに、僕の心は信じてもらえないかもしれない。

 だから僕はただここにいるよ。

 きみの邪魔にならなくて、でもたしかに温もりが届く場所に。


 愛されないと呟くきみに、どうして愛を伝えようか。

 きみが歌を知っているのは、いつか誰かがきみに歌ってくれたから。

 きみが空想の世界にひたるのは、いつか誰かがきみに物語を聞かせてくれたから。

 きみに好き嫌いが多いのは、おいしいものも苦手なものも食べさせてくれた誰かがいたから。

 きみが言葉に傷ついてしまうのは、いつか誰かがきみに語りかけて言葉を教えてくれたから。

 ひとりぼっちがさびしいのは、いつかきみのそばに寄り添う誰かがいたから。

 きみは忘れてしまったかもしれないけれど。

 もう一度、そういうものをきみに贈りたい。


 なんにもないと嘆くきみ、どうすれば顔を上げてくれるだろう。

 太陽はきみだけのために照るわけではない。

 けれど、光を注ぐその先には間違いなくきみもいる。

 星はきみだけのために瞬くわけではない。

 けれど、きみにも見てほしくて輝いている。

 水はきみだけのために流れるのではない。

 けれど、きみの身体の半分以上を満たしてくれている。

 きみだけの空気じゃない。

 けど、空気のあるこの星にくらして呼吸をしている。

 

 きみは自分の泣き声が聞こえていないんだね。

 生きたい。生きたい、生きたいと、誰よりも強く訴えている。

 僕にはちゃんと聞こえているよ、きみの声が。

 今きみが泣くことしかできないならば、

 代わりに僕がおいしいものを作ってあげよう。

 代わりに僕が歌をうたおう。

 代わりに僕が、きみの物語をかたろう。

 きみの代わりに泣いたっていい。

 

 僕はここにいる。大丈夫だよ。

 いつか、

 きみに美しいものを見せてあげたいんだ。

 きみが忘れてしまっても、僕はきっと忘れないよ。

 だから大丈夫。


 おたんじょう日、おめでとう。

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きみにおくる 香久山 ゆみ @kaguyamayumi

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