第2話 「小学生でもできる稼ぎ」

 学校の帰り道。

 俺はランドセルを背負いながら、昭和の商店街を歩いていた。


 八百屋、豆腐屋、駄菓子屋。

 今では消えた店が、当たり前の顔で並んでいる。


(……そうだ)


 昭和は“現金社会”だ。


 クレジットもネットもない。

 情報も遅い。

 つまり――歪みが多い。


 最初のヒント:駄菓子屋


「おばちゃん、うまい棒ある?」


「10円だよ」


 値段は覚えている。

 だが重要なのはそこじゃない。


(この店、仕入れは月一回……)


 50歳の記憶が、自然と回転し始める。


 昭和の個人商店は在庫管理が甘い。

 売れ筋と死に筋の把握も感覚頼り。


 人気商品が切れる。

 不人気商品が余る。


 行動①:不人気商品の回転


 俺は、誰も手を出さないチョコ菓子を数個買った。


「それ、好きなの?」


「うん、家で食べる」


 嘘はつかない。

 半分は本当だ。


行動②:場所を変える


 翌日、別の学区の駄菓子屋。


「これ、あります?」


「あー、それ入ってないねえ」


 (来た)


 俺はランドセルから、昨日買ったチョコを出す。


「これ、友達に頼まれてて」


「へぇ、珍しいね」


 1個20円で売る。

 仕入れは10円。


 倍。


 小学生がやっても不自然じゃない、

 “おつかい感覚の横流し”。


初収益


 帰宅後、机の引き出しに並ぶ硬貨。


 10円玉、20円玉、50円玉。


 合計――120円。


(たったこれだけ……)


 だが、胸の奥が熱くなる。


(最初の種銭だ)


 大人の俺は知っている。


 金は額じゃない。

 回転だ。


 次の一手


 俺はノートを開く。


「仕入れ」「販売」「利益」


 拙い字で書きながら、確信する。


(競馬はまだ無理)

(株はもっと先)

(だが――)


 この昭和は、稼ぎ放題だ。


 ランドセルの中で、

 未来が静かに音を立てていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る