性癖廻戦 後編


1時間後。


「……………」


寅児は資料室の前で手を組み、指先をトントン鳴らしながら行ったり来たりしていた。


遅い。

遅すぎる。


「これ、大丈夫なのか……?」


次の瞬間。


『んほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡』


「!?!?!?!?!?ナッ!!??なんだァ!!??」


今のは、賢子の声!?


寅児は勢いよく、資料室のドアを開けた。


「賢子ッ!?大丈夫………か」


そこには、目を疑う光景が広がっていた。


ぱんぱんぱんぱん!


賢子が、机にうつ伏せに、スカートをたくし上げて黒人のものを股で受け止めていた。

賢子とまぐわっている黒人がひとり。

奥にスマホを持って立っているガリガリがひとり。

そのさらにその奥に椅子にふんぞり返ってるガラの悪い人間がひとり。

窓周辺の床に立てかけるように、『四股が無い』目隠しされた女子生徒が何人か飾られている。


「寅児ィ♡♡♡♡なんで入って来たのお♡♡♡♡見られたくなかったのにぃ♡♡♡♡ゴメン♡♡♡♡ち○ぽには勝てなかったんほおおおおおおおおおおお♡♡♡♡」


「コノオンナ マタユルユルネ チョットオドシタラ コノトオリダヨ」


「お、終わった……」


「この女のお仲間さんか?」


奥に座っていたガラの悪い人間が腰を上げてこっちに近づいてくる。


「残念だけどこの通りだ。この女が強いのは校門に入ってきた瞬間から分かっていたが、俺の魔性を知った途端この通りだ」


動悸が止まらない。


「俺の魔性は『空間断裂』。指でなぞった線に沿って、空間ごと割る。物体を分けられる。ただし、切れてるのは物体じゃなく空間だ。空間を繋げ直せば元に戻る。

例えばカエルを真っ二つにしてもまだ鳴いてるだろうよ。切れたのは空間であって身体じゃないからな。

だが逆もある。空間を『確定』すればもう戻らない。

切り分けられた状態が現実となる。

……この女どもも、同じだ」


そういうと彼は四股が無い女子生徒たちをちらっと見た。


「最初この女が現実改変の魔性持ちって外にいる女からLINEで聞いた時は冷や汗かいたぜ。ついに『政府のかたがた』は俺らを消すのに本腰を入れてきたんだなって思ってな。でもどうやら、改変するにも指で触れないとダメなようだな。それにもしや、死んだ相手も蘇らせられないのか?空間分裂を確定させたら都合が悪いようだ。強い魔性だが身勝手はできない、穴のある能力だな」


「アナ シカナイヨ」


「HAHAHA!ジョーダン。今のはブラジリアンジョークか?」


「タダノ ブラックジョークダヨ」


「肌の色がってか!?ガハハ!」


「へ、ヘイトスピーチ……」


コイツら、笑ってやがる……!


「俺の『空間断裂』。ジョーダンの黒人の身体から繰り出される『マジカルチ○ポ』。ガリ助の『スマホ操作からなる広範囲洗脳操作アプリ』それにこの女も今から墜としきるから『現実改変』も手に入る。これ国家転覆もできるんじゃねぇの!?やっちまうか!?『全人類四股計画』始めちまうか!?ケヒッw」


「んほおおおおおおおお♡♡♡♡性癖の開示ッ♡♡♡♡本気だねええええええ♡♡♡♡」


も、もう、俺がやるしかねぇ……!


――――――ザッ!


肩から刀を抜く、その前に。


ドゴォン!


「ガハッ!?」


ガリガリの男が一瞬で間合いを詰めて腹を殴ってきた。

息が抜ける。視界が揺れる。


「お前、魔性の副次効果知らねーのか?」


男は薄く笑う。


「魔性への耐性と同族の感知。そして、無尽蔵な体力と著しい筋力強化……!お前もある程度は鍛えているみてぇだが……ガリガリのオレでも、ここまで圧倒できる!!」


ズオーン!


寅児はドアごと蹴り飛ばされ、廊下へ叩き出された。


「ゲホッ…!バ、バケモン共がぁ……」


口から血が滲む。

背中と肋骨が痛む。

関節の節々が危険信号を発する。


「(だが、チャンスだ。窓際だ、ここから一回飛び降りてでも……)」


でも、その後は?


「……………」


俺は、あの人(賢子)を置いて逃げれるのか?

俺が逃げたら、アイツらはいよいよ賢子を連れてどこか遠くへ身を隠すんじゃないのか?


「そんなの……!」


自分を許せない!


ジジジ……ジャキィ……。


背中のケースのジッパーを引き裂くように開け、刀を引き抜いた。


「刀!?すげぇ!!」


ガリガリの男が歓喜する。


「おい、一応気をつけろよ。コイツからも微かだが魔性の気配を感じる」


奥からガラの悪い男が声を張り上げる。


「(この刀には激物が塗られているらしい。なら肌を掠めさえすれば……!)」


「大丈夫だよ。だって」


ガリガリ男は言い切る前に


「オラッ!催眠ッ!」


スマホをかざした。


「(チャンス!俺はそれにはつよ……アレ?)」


刀を振りかぶった瞬間、意識がふと遠のく。


「(ど……おし、て)」


寅児は目を閉じて廊下の壁によろよろと寄りかかった。


「コイツ、魔性戦は初めてかよ?てんでダメだな。センスもなにも――」


寅児の刀が、ガリガリ男の首元を掠った。


「きょーーーーー!!!!!」


ガリガリ男は痙攣して崩れ落ちる。


「どうしたガリ助!?今しっかり洗脳したんじゃねぇのかよ!」


「洗脳返し、ですわ」


「なッ!?」


ガラの悪い男が振り向くと、賢子は制服の袖を整えていた。

黒人のジョーダンもガリ助同様、床に崩れ落ちている。


「洗脳への一番の対処法は、あらかじめ洗脳を施すこと。彼には、正規の手順以外で洗脳を受けた際に、反射的に反撃するよう『改変』しておきましたの」


「なんでお前ピンピンしてやがる…!お前はジョーダンの魔性で…!」


「アナタはワタクシの魔性を『現実改変』だと勘違いしてたようだけど違いますわ。ワタクシの魔性は……」


郷栗賢子ッ!魔性――『蠱毒(こどく)』ッ!


まぐわった相手の技量、性癖、性感帯など性関連の情報のインプット量に応じて学習・適応・精力吸収・最終的には相手の魔性を我が物とするぞッ!


「な、なんだよソレッ!?チートじゃねぇか!?」


「ウ、ウゥ セイヨク スベテナイナッタヨ ニホンノモリヲ マモリタイ……」


「ちなみにジョーダンさん。もうエッチできないですわよ。だってアナタ、もう二度と“ソレ”が立つことは無いですもの。魔性とは性欲の源そのもの。ワタクシの魔性、永続的なモノですの」


「シュッケ シマス……」


「(マズイことになった!だが、まだ手はある!『四股女ども』はそのままだ!上手いこと交渉して……)」


「そうそう、魔性を我が物にするって言っても、残念ながらワタクシには殿方のように立派に立つイチモツはありません。よって、彼の『マジカルチ○ポ』はそのままでは使えない」


そこで賢子の目がギラっと光り『敵』を見つめる。

ニッと口角を上げる。


「しかしッ!!!!ワタクシたち女にも、立派に立つモノはありましてよッッッッ!!!!」


拳をギュッと握り込む。

禍々しい紫と黒のオーラと少しのキラキラが拳を覆い隠す。


「ま、まさか……おいッ!?聞け!!あの女どもがどうなっても――――――」


「マジカル☆パンチッッッッッ!!!!!」


ドオオオオオオオオオオオン!!!!!!!


爆風が広がり、壁棚も机も壁紙もまとめて吹き飛ぶ。




「う……うぅ」


目を開けると、資料室の前だった。

正確にはもうドアなんてない。

ただの穴だ。

寅児は廊下に転がっていた。


「ハッ!賢子は……!?」


ガタッ。

ドアがあった場所に軽く手を添えて資料室の中を覗き込む。


じゅるるるるるるるるるるる!!!!!


そこには、賢子が気絶しているガラの悪い男にベロチューをしている光景が広がっていた。

男はビクビクと身体を震わせている。


「さいてー……」


きゅぽん!


「あら、起きましたの」


気付いたように彼女は男からバキュームのような口元を離し、くるっと顔をこちらへ向けた。


「ようやく今、彼の魔性を奪い終わりましたわ。やっぱりあっちから襲ってくれないと反応が少なくて奪うのに時間がかかりますわね」


先ほどの資料室に立てかけられていた『四股』たちは『四股』がすでに生えている。


「もしかして、襲われたのってワザとか?」


「当たり前でしょう。彼らがなにかしら強力な魔性を持っていることはドアに入る前からわかってましたわ。庁に戻ってからだと奪うチャンスはこないし、こういう時に頂戴するに限りますわ!」


「は、はは…すげぇ世界だ。てっきり俺はもうダメかと」


「まぁ、ワタクシの魔性の性質的に興奮してたのはマジですわよ。すぐ適応して通常レベルに落ち着きますけど」


魔性戦。

理不尽と理不尽。

狡猾と嘘の押し付け合い。

この世界で戦う。

ようやくその意味が理解し初めてきた。


だが、とりあえずは


「お疲れ様。賢子、先輩。少し挽回させてくれ、パフェは俺の奢りでいいか?」


床にしゃがんでいる賢子に手を伸ばす。


「あら、軽々しく奢るという言葉を使うと後で後悔しますわよ?いつもワタクシ、銀座では一番高い抹茶パフェを頼みますの」


手を掴み、立ち上がる。


俺は、この人の背中に追いつけるように頑張ろうと思った。





        『性癖廻戦』

           


                END




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性癖廻戦 あまもよう @aaa777111

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